日進月歩
まずはCLTの内容に入る前に、木構造について少しご説明しましよう。
日本の住宅といえば、木造住宅が主流です。古い民家を見ても、木造、土壁、茅葺屋根、深く出した軒、襖や障子など、木造の家には、快適に暮らすための知恵がたくさん詰まっています。ただ木造の場合、火災に弱いという弱点や、木材の消費を抑える目的もあり、住宅以外の建築物については不燃化を促進するために、RC構造などで建てられるようになりました。
しかし、近年地球温暖化防止などの観点から、公共建築物の木造化を積極的に推進する動きがでてきたのです。特に木育という視点から、幼稚園や学校などでも内装も含め積極的に木を活用する動きが出てきました。(東京おもちゃ博物館)
今回のライフコラムでは、大規模の公共建築物での木造の採用が高まる中、最近よく耳にするCLTについて取り上げてみました。
日本の木材の自給率が、林野庁の木材自給表によると平成25年で約3割、約7割が輸入材です。
今後、国産材の割合を増加させる意味でもCLTによって国産材の活用ができるのではないかと期待されています。
CLTとは???
CLTとは、Cross Laminated Timber (クロス・ラミネイティッド・ティンバー)の略称で、ひき板(※)の繊維方向が層ごとに直行するように重ねて接着したパネルを示す用語です。この材料を用いた建築工法を示す用語でもあります。JAS(日本農林規格)での名称は、「直行集成板」といいます。
左下の写真は、CLTの断面です。
厚さ約30㎜のひき板を5層交互に重ねているので、全体の厚みが約150㎜あります。CLTは、幅や厚みの異なる木板を有効活用して、通常50~250㎜程度の厚さにし、大きなパネルにして構造材にしていきます。
右下の写真は、幅6000㎜、高さ2700㎜のパネルです。
厚くて大きな材料は、まるでコンクリートの壁のようですね。
|
|
CLTの断面 |
2.7×6m パネル |
CLTは1990年代からヨーロッパで開発された新しい木質構造用材料です。開発、実用化が進み、8~10階建てのマンションや、中・大規模の商業施設や公共施設、集合住宅など様々な建築物が実際に建てられています。
|
|
5階建てCLT集合住宅(ウイーン) |
9階建て公営住宅(ミラノ) |
|
ショッピングモール(ウイーン) |
日本では2012年1月に、一般社団法人 日本CLT協会が設立され、2013年には日本の基準を定めるために様々な取組がスタートしました。同時に国土交通省や農林水産省・林野庁もCLTを推進しています。
そして平成26年1月に「直交集成板(CLT)」のJASが施行された後、登録認定機関による製造業者等の認定を経て、JASマークの付されたCLTの流通が始まっています。
今後は、建築基準法上の位置づけを得てCLTを構造材として一般的に利用できるようにするよう活動しています。
壁・床・天井にCLTを使用した日本初のCLT構造建築物が高知県で建設されました。2013年8月に国土交通省の大臣認定を取得した、3階建て5部屋の社員寮です。
CLTの建物は、北海道など各地で建設されつつあります。高知おおとよ製材社員寮(日本)
これまでの材料になかった多くの利点を持つ新しい木質構造用材料として、中高層の鉄筋コンクリート造に替わるかなどと、注目を集めています。2015年現在は、実証的建築を積み重ねて、様々な日本の技術的基準などを研究している最中です。Step2ではこのCLTの特徴をご紹介します。
写真資料提供ご協力:一般社団法人 日本CLT協会
ホームページ http://clta.jp
強い構造材
●地震に強い
CLTは、材料そのものが頑丈で、構造的な安全性が高い建物が建てられます。
振動台実験による性能検証が行われました。2007年にイタリアで7階建てを、日本では2012年に、国産のスギCLTを材料にして3階建てで屋根部分にプラス2階分の重さの鉄板を載せて5階建て想定で実験を行いました。阪神・淡路大震災を再現した揺れに対しても大きな損傷はなく、高い耐震性が実証されました。
CLTは1枚のパネルで様々な性能を持ち合わせています。
従来の木造軸組み工法の壁には、柱と梁の木材を断熱材や耐火被覆の石膏ボードやサイディングなどで覆っていました。しかも現場でひとつひとつ組み合わせていきます。それに対して、CLTパネルは1枚で同等の性能を発揮できることがわかっています。
これらの性能確認の実証実験が現在行われています。
●燃えにくい
木材は燃えやすい材料ですが、一度火がついても炭化層が形成され、CLTのような分厚い材料だと内部までなかなか燃えていきません。全く燃えないわけではありませんが、耐火性は他の被覆した木構造(軸組み工法やツーバイフォー工法)に劣りません。
Memo
木材の特徴
●加工しやすい
●燃えやすい
●乾燥させると強度が出る・・・メリットがいっぱい |
詳しくは・・・素適住生活研究所HPを参考にしてみてください
木材の達人 > 木のコラム > いい木ってどんな木 |
CLT工法の特徴
●施工が早い
大きな面材であることや、工場でパネルの製造と加工が行われるので、現場での施工が容易で早いです。
また、現場での端材などの廃棄物を少なくできることや熟練工が必要ないことので、現場の作業効率がよくなります。
●シンプルな接合
CLT同士やCLTと他の材料との接合は、長いスクリューやL型の金物によって行われるのが一般的です。接合金物やスクリューの種類を少なくすることで、設計や施工の省力化も図ることができます。
●軽量
コンクリート構造に比べてCLTは軽量であるため、基礎のコストの
軽減が見込めます。
|
幼稚園建設現場(オーストラリア) |
環境に優しい
●断熱性に優れている
木材は鉄やコンクリートに比べて、高い断熱性能を持っています。CLTは厚みをもった材料なので、この木材の特性をさらに活かし、快適な室内環境を実現できます。
|
集合住宅(ウイーン) |
●寸法安定性が高く扱いやすい
木材は繊維方向によって収縮率が異なる材料ですが、CLTは材料を直行積層することで、互いの層が変形を抑えあい、通常の木材よりも寸法変化が少なくなります。精度の高い加工機と組み合わせて、施工性も高まります。
●成長した木材資源の活用
木材は太陽の光で育つ再生可能な材料です。日本の森林は、木の生長量が利用量を大きく上回っており、成長量に見合った木材資源の有効な利用が求められています。
スウェーデンの木材が、成長量1に対して伐採量が0.85というのに対し、日本は成長量1.7に対して伐採量が0.35です。ということは、木材が育ちすぎて余っているということです。農林水産大臣も木材の需要を大きく伸ばすもののひとつになるのではないかとCLTを推進しています。
写真資料提供ご協力:一般社団法人 日本CLT協会
右は、ナイス住まいの耐震博覧会2015年においてCLTの実物展示の写真です。
5階建てCLT試験体の一部、4階と5階の2層の部分です。CLTの厚みが実際にみることができました。
建物として完成するのは、断熱材や仕上げ材を取付て完成します。
今後のCLTは、2020年東京オリンピックの建築物にも採用されるかもしれません。どうぞご注目ください。
ホームページ http://clta.jp
注目を集める木構造 CLTとは?
https://www.vinice.jp/wp/wp-content/uploads/2015/04/CLT-S.jpg
https://www.vinice.jp/lesson/2484/