山岳ガイド・自然ガイド養成指導者
(社)日本山岳ガイド協会認定・登擧ガイド
(社)日本山岳ガイド協会・資格審査委員会委員長
NIAJ(ネイチャーインストラクターズアカデミーオブジャパン)・会員
環境省委託・自然公園指導員
神奈川県山岳連盟・常任理事
遭難対策委員長・会報委員長
横須賀山岳協会・理事
SAJ(全日本スキー連盟)・公認1級
下越田功の山のブログ ↓
http://bearsi.blog69.fc2.com/
登山は健康的
vinice
暑い夏がすぎると、自然の恵みをいっぱい体感できる秋が訪れます。気温が下がると、空気が澄んで鮮やかな青空が見える日も多くなり、山々の樹木はいよいよ紅葉がはじまります。
私は、この季節に色とりどりの紅葉を鑑賞したり、おいしいものを食べたり、温泉に入ったりすることを一遍に楽しむために、秋山登山をします。この魅力を、多くの女性にも是非、体感してもらいたいので、山岳ガイドの下越田先生に、初心者に向けて安心して登山を楽しめるお話を伺いたいと思いました。
おそらく不安な要素がいっぱいあると思うので、心構えから是非教えてください。宜しくお願いします。
下越田氏
はい。「これからはじめる私の登山」というわけですね。わかりました。
では、登山がなぜ健康的なのかはわかりますか?
vinice
自然の中に入ることでしょうか?
下越田氏
そう、森林浴です。マイナスイオンを浴びると、疲労回復になります。
マルコポーロが13世紀に「東方見聞録」の中に中央アジアの人々は、体調が悪いときなどは、山に入り2~3日で元気になって帰ってくる」という紀行文を残しています。私達の仲間で登山家で医師の今井通子先生もマイナスイオンには、神経伝達物質や神経細胞を増やし認知機能を活性化させることが解明されてきており、更に森林環境にいるときは、体をばい菌から守り抗ガン能力が高まる免疫細胞が増えて活性化をし森林浴による免疫活性化はキノコ類やガーリックなどの食品より高いと話しております。
また、フィッチチンドンといって体を殺菌する菌も含まれています。 アメリカの教授が、高所民族(高地で生活する人々)に成人病が無いことを発表しています。高所で重労働をしていて、食べ物も質素であることが、コレステロールがたまりにくい要因となっているようです。つまり、高い場所で重い荷物を背負い、限られた食料で過ごす『登山』は、高所民族の生活に似ています。
よって登山は成人病になりにくい健康的な運動といえます。
vinice
それに登山すると、気持ちが元気になってくる感覚があります!
健康的であるという理由からなのでしょうか、日本には中高齢の登山者が多いですね。 それに、今夏のニュースによると、富士山登山者が増加しているそうです。しかも、女性登山者が6割弱もいたそうです。富士山登山の人気の理由のランキング1位に、『健康志向のため』にという人が多かったそうです。みなさん、心得ていらっしゃるんですね。
下越田氏
女性登山者は既に7割を超えているのではないかなぁ・・・。
日本の登山の歴史は、昔から信仰の山としてありました。そして、日本は、東経140度に位置し南北に連なる列島に山々があるから、四季折々に登山を楽しむことができます。でも昔は、山は聖なる場所として女性は入ることができなく、女性は不浄なものとされていたのです。 やがて、近代文化の発展から女性にも開放されて、今日では女性の登山者が多くなりました。
1955年ころから各地の山で大学山岳会などによるルート開発が行われました。1980年代に入るとルート開発は終わり小康状態が続いていました。やがて1990年代から登山ブームとなり、事故が発生するようになりました。
この事故の全体の70%が気軽なツアーで登山をする人です。また事故の80%は中高年登山者で、その事故形態は滑落などもありますが、事故形態のほぼ80%が『道迷い』によるものです。病気としては、心臓の病気が80%です。
あなたは遭難する人?しない人?
vinice
登山に危険なことがあることは、認識していますが、絶対に当事者になりたくないです・・・・。
事故形態の要因が偏っていることから、予め事故にならないように用心すれば、安全に登山を楽しむことができますね。
vinice
・・・わかりやすいですね。“1”や“6”など、人任せになってしまう人は確かに迷い道で遭難しそうですね。
観光旅行に行くときも、つい連れていってもらうときは、つい自分がどこにいるかわからなくなることもあります。
下越田氏
私は、山岳ガイド協会に携わっていて「ガイドに対する登山における安全管理や倫理等を指導教養しています。そこで、ベテランから初心者まで指導しています。
これは、神奈川県立秦野ビジターセンターでの「しもこしだの安全登山教室のテーマとして『山登りとは』 と提言しています。
山登りとは
自分で考え
自分で決定し
自分の良心に基づき
自分の責任で行動し
そして
すばらしい自然と共生し
心豊かな人生を送る
秦野ビジターセンターにおける
下越田功氏の新安全登山教室の提言
vinice
登山には、こうした言葉が心に強く刻みこまれますね。自然を甘くみてはいけない、きちんとした心構えで行動しないといけないと身が引き締まる思いです。自覚しないと事故は予防できません。
・・・でも、少し身構えてしまい登山を怖く感じた方もいるかもしれませんね。
vinice
登山は、体だけでなく精神も鍛えられえますね。
次回のLessonでは、『あなたは、遭難しないタイプの人』を目指して、余裕をもって楽しく登山ができるように、事前の準備について伺います。
登山ウエア
vinice
Lesson1で、遭難事故についてお話を聞いた後、少し登山に対して尻込みしてしまった方もいるかもしれませんね。Lesson2では、基本的な登山知識を教えていただき、登山を楽しむための心構えを整えていきたいと思います。
早速ですが、事前準備として登山に行くにはどんなものを用意したらいいのでしょうか?
下越田氏
では、まず持ち物から説明しましょう。
まず『ウエア』です。
衣類は、レイヤードします。・・・重ね着をすることです。
下着は夏でも冬でも、吸汗と速乾性の良い素材のものを準備します。
これから行く秋には保温性を兼ね備えるものが必要です。そしてレイヤードするときは、衣類と衣類の間に空気の層、つまり空間をつくることがポイントです。
vinice
登山用ウェアは、機能的なハイテク素材が多いように思いますが、素材だけでなくレイヤーするという着方もポイントなのですね。
下越田氏
ベースレイヤー(下着)・ミッドレイヤー(中間着)、アウターウエア(上着)と分けて、それぞれに必要な機能をもたせてください。
登山ウェアは重ね着がポイント!
ベースレイヤー ・夏でも冬でも吸汗、速乾性が大切。
(下着) ・早春、晩春時及び冬季は、保温性も兼備えるもの。
ミッドレイヤー ・気温に応じてフリース素材のウェアやシャツなどを
(中間着) 着用し保温が目的。
・真夏での気温が高い日には不要だが、防寒用に必要。
アウターレイヤー ・外気から体を守る防風・防水用、防寒用のジャケットや
(上着) レインウェアなど。
・パンツは、足の動きを妨げない伸縮性、
水や泥はねを防止する撥水性に優れたもの。
vinice
女性は、カラーリングなど、プラスファッションを楽しみたいですね♪
アウターウェアには、雨カッパか、ポケットがたくさんあるいかにも上着っていう感じのジャンバーが良いか、どちらがいいのか迷うのですが・・・・。
レインウエア
下越田氏
雨の時のレインウエアは、防水性や、速乾性のあるものが良いです。
雨が降ったら、防水性、そして風が吹いたら防寒性のあるものが必要です。
でも気温が下がった場合に、カッパなどのレインウェアを着ても効果はありません。
・・・風速1mの風が吹くと、体感温度が1℃下がります。例えば、風速5mの風が吹くと5℃体感温度が下がることになります。その体感温度の変化を防ぐには、防水性と共に、風を遮るためにもカッパに効果があります。
気温と体感温度は違います。気温による寒さから体温を維持するには、カッパを着ても効果はありません。気温が下がった時に、カッパの使用法を間違えると大変です。
山は寒暖の差が激しいので、上手にウェアをレイヤーして体感温度を保つようにしてください。
vinice
アウターウェアで、風を遮り、ミドルウェアで保温するようにして、重ね着をして体温を調整するわけですね。
下越田氏
標高が上がれば当然気温は下がります。標高100m上がるごとに、気温は0.6℃下がります。
例えば、海抜0mが、0℃だとすると、標高1000m地点の気温はマイナス6℃になります。
更に体感温度の話を加えて例えると、標高2500mへあと1500m上るとき、標高差は1500mで、約9℃気温が下がり、頂上となるとマイナス15℃となります。そこへ、風速3mの風が吹いたら、体感温度が3℃下がることになりますから、最終的に体感温度はマイナス18℃に感じるわけです。
vinice
秋の街中の気温を、だいたい18℃として考えると、標高2500m地点で風速3mの風が吹いたとしたら、体感温度が0℃くらいとなるわけですね。
下越田氏
私の場合、着替えは下着のTシャツとパンツだけ。しかもこうした下着は、洗濯したら着干しするんですよ。山では着たまま、自分の体温で乾かすのです。
vinice
基本的にミドルウエアやアウターウェアは、着替える必要はなく、肌に触れるアンダーウエアの下着や靴下の着替えさえ用意すれば、問題ないですね。
登山シューズ
下越田氏
次に靴ですが、足首をガードするためにしっかりとした靴が必要です。
初心者には軽めのハイカットシューズがおすすめです。そして足首をしっかりとガードしてください。捻挫防止になります。
vinice
紐の締め方とか、何か注意点はありますか?靴の裏は硬い方がいいのですか?
下越田氏
下りのときは、足首周りの紐をしっかりと締めます。でも血流を悪くしないように加減を注意してください。紐を締めるのは、足の指先が、靴の前方に動いていって爪を傷めないように、ハイカットの足首部分で抑えます。靴を購入するとき、サイズの目安は、かかとに人差し指が1本入る位の余裕をみた大きさが丁度良いです。
あと、靴の裏は、でこぼこした不整地を歩くので、それに適した硬さの靴が必要になります。硬さや素材についてはショップの店員に相談すると、目的にあったものをアドバイスしてくれますよ。
vinice
私も紐の締め方は、下りの時、特に注意しています。捻挫しそうで怖いですから。それに足首にフィットしていると、足の運び方も楽ですよね。
靴を買ったとき、厚手の靴下を持っていけばよかったと思いましたけど、ショップに靴下が用意されていたのでそれを履いて靴の大きさをチェックしました。靴下の厚さも結構重要ですよね。
ザック
下越田氏
次にザックの大きさですが、ザックはだいたい日帰りだと、30リットルくらいで十分ですね。
山を縦走する場合などは40~50リットル。容量が大きければ、荷物は重くなってしまうからね~。
女性は、着替えなどが男性より余計になり荷物が多くなることがありますから・・・・注意してください。衣類に関しては、スキンズなど、機能性に優れたものを上手に使い、荷物を軽くするように心がけてみてください。スキンズは、アンダーウェアとして便利ですよ。
そしてザック自体の重さも軽いものを選ぶようにしてください。そしてすぐに破けて裂けてしまうような製品は選ばないように気をつけてください。メーカー製品は縫製に自信があるので、信頼できる素材でできているメーカー製品を購入すると良いでしょう。
vinice
とにかく初心者は、登山専門店で店員の方に相談して購入すると安心ですね。
他に、ザックの中に入れて持っていくべきものがありましたら教えてください。
下越田氏
当然、地図は持ちましょう。縮尺1/25,000程度のものが一般的ですが、初心者は登山地図で水場などの位置がわかる程度の1/50,000くらいで良いでしょう。
vinice
だいたい山へ行く格好がわかりました。でも、実は一番心配なのが体力です。
山に行く前に、どのようにして体力準備をしたら良いでしょうか?また、山の歩き方にコツはあるのか、次回は、筋肉の鍛え方や山の歩き方などを教えていただきます。
カラダの鍛え方
vinice
Lesson2に引き続き、登山の準備として、持ち物ではなく自分自身のカラダの準備について伺います。
やはり登山をするのは体力が必要だと思うのです・・・。
登山をする前には、どんなふうにカラダを準備していけば良いのでしょうか?
下越田氏
トレーニングとしては、現在流行しているウォーキングも良いですが体にかかる負担が少ないので誰でも出来ます。
ジョギングは、運動強度があり若干負荷がかかるのでおすすめしたいですね。でも、朝一番に走るのはよくありませんよ。やはり人間に
とってもアイドリングが必要です。目覚めてから5・6時間後くらいに体を動かすのが理想です。
vinice
肺活量を増やすことも必要なのですね。筋肉はどうトレーニングしたら良いでしょうか?
下越田氏
人間には400種類の筋肉がありますが、登山では8種類の筋肉さえトレーニングすればいいです。
①腹筋 (ふっきん) ・・・・・おなか
②背筋 (はいきん) ・・・・・せなか
③大腿四頭筋 (だいたいしとうきん) ・・・・・もも
④下腿三頭筋 (かたいさんとうきん) ・・・・・ふくらはぎ
⑤前頸骨筋 (ぜんけいこつきん) ・・・・・すね部分から足首
⑥大胸筋 (だいきょうきん) ・・・・・胸
⑦僧帽筋 (そうぼうきん) ・・・・・背中:リュックを背負う筋肉
⑧大臀筋 (だいでんきん) ・・・・・おしり
簡単なトレーニングとしては、まず階段を利用し③大腿四頭筋、④下腿三頭筋、⑧大臀筋を鍛えます。このとき重い荷物などを負荷をかけると効果的です。踏み台昇降なども手軽にできます。そして寝るときに、足を10センチくらい床から上げて10数えたら下げるなど、呼吸をしながらゆっくり行い腹筋を鍛えます。これを3セット。・・・・あとスクワットなどもいいですね。
腕立て伏せで、大胸筋(胸骨筋)が鍛えられます。中高年の方には、買い物のときなどにリュックを背負うようにすすめています。
vinice
登山ザックを背負うのも、日常にない姿勢ですから肩や背中も鍛える必要ありますね・・・。
下越田氏
登山の下り時は、体に伸縮性筋肉活動と、重力による負担がかかります。こうした負荷がかかっているときに、筋肉痛が生じます。歳をとると筋肉痛が出るのが遅いという話がありますがそれは間違いで、この痛みは、「遅発性筋肉痛」と言って筋繊維あるいはこの繊維を腱に結合する結合繊維の裂開が原因と言われております。
筋肉痛を感じるのは、日ごろ運動の回数が少ない人が、久しぶりに使うことによって、筋肉の繊維が破損して痛くなるのです。年齢のせいではありません。
また、ひざが痛くなるのは、変形性膝関節炎(膝を深く曲げた時に痛む)、膝蓋靭帯炎(膝のお皿の下の部分が痛む)、腸頸靱帯炎(膝の外側が痛むのが特徴)、膝蓋軟骨軟化症(お皿の裏にある軟骨が傷ついて痛みが起こり下山時に特に痛い)等があります。筋肉や靱帯の柔軟性が膝の痛みを防ぐため筋肉、靱帯、関節包(間節の周囲を包んでいる組織)等をストレッチを行うと良いですよ。痛みの症状が出る前からストレッチをして血流をよくするようにしましょう。
どうしてもダメな人はテーピングをしたり、ストックを使うようにしましょう。途中痛くなったら、応急処置するように心がけてください。
vinice
上りより、下りのほうが足を痛めやすいものですよね。
痛み防止のためには、日ごろから筋肉を鍛えておくことと、登山を始める前にはストレッチを行うことを忘れないようにしたいですね。
下越田氏
山小屋へ着いたら、冷たいビールよりも果物やジュース等のビタミンCを取り休み、疲労を回復するようにしましょう。
そして足の痛い人は、膝を心臓より高い位置にして30分アイシングをします。次に患部を温めることが大切です。
こういうときには、冷・温の湿布を利用すると便利です。ひざの痛みはこうして対処し、血液循環をよくするようにしましょう。
登山というスポーツ
下越田氏
登山は、普通のスポーツと違います。極端な言い方をすると、最大下運動です。
普通のスポーツは、精一杯もっている力、100%の筋肉を使ったりする最大運動ですが、山の場合は、60~70%の筋肉しか使いません。これを最大下運動といいます。だからある程度年齢を重ねても各自のペースで登れるわけです。みなさんでも大丈夫。
登山というスポーツは、ふたつのエネルギーを上手に使う最大下運動です。
エネルギーのひとつがグリコーゲン。=糖質の分解を行います。瞬発力を発揮したときに使われます。例えば「よっこいしょ!」という時に使われています。急激に運動すると血流が早くなり、代謝物質の乳酸が発生し息苦しくなり、これを除去するために酸素をより多く摂ります。
そしてエネルギーのもうひとつは脂肪です。長く歩いているときに脂肪を分解しパワーにかえていきます。
このふたつのエネルギーをゆっくりと、バランスよく使うと上手に楽に登ることができます。
ですから、登山は健康のためにも、遊ぶことが大事。自然観察をしたり、動物鑑賞をしたりなど、時間の余裕がほしいですね。
vinice
プレッシャーを感じないように、焦らずゆっくり歩くことが肝心ですね。
これだけエネルギーが必要なら、当然出発前には食事をたくさんとらないと駄目ですね・・・・。
下越田氏
もちろん出発前は、必ず食事を摂ること。・・・もち米類が良いですね。バナナは、即効性がありますが1時間位しかもちません。
食事したものは4時間位かからないと分解できないので、エネルギーを使う4時間前に食事をとるようにしてください。今、話題のアミノバイタル等は、30分位でこれを補いエネルギーに変えるので、早くエネルギーにかえるならこのような食品を利用すると良いでしょう。
vinice
では、出発後のエネルギーのためにどのくらいの食品を荷物に詰めたらいいですか?
下越田氏
行動食は、遠足やハイキングと若干違います。たくさん持っていく必要はありません。でも、好きなものでいいと思います。
登山は、大きく分けて行動食(自分の嗜好品例、あめ類、菓子パン、果物)、非常食(万が一停滞を余儀なくされた場合の食料で簡易食料でラーメン、チョコレート等)、共同食(パーティーで一緒に食べるもの)がありますが、重くならないようにしましょうね。
ビタミンCはあるといい。かといってビタミン剤ではつまりません!山では、遊ぶことが大事。違う環境でおいしく食べるのも楽しみのひとつですから・・・。また、食料を人の分まで多く持ってくる必要はないですよ。余分なものはいりません。それぞれが用意して、たまたま余計にあったら分けるなどの程度でいいと思います。
vinice
チョコレートなども不可欠ですね。でも、ノドも乾いてしまうので食べすぎも注意ですね。
下越田氏
水をとるタイミング、熱中症に注意です。まず塩水が必要。塩分が必要なのです。
筋肉は、神経伝達がないと硬くなります。脳からの神経伝達は、塩分成分である塩化ナトリウムがなくなると痙攣を起こす。水ばかりでなく、塩分が必要なわけです。粉末のスポーツドリンクや、岩塩(スポーツソルト)とか、梅干があるといいですよ。
ただの水を飲んでも、吸収しにくいので、果物とか野菜があると便利です。野菜のきゅうりとか良いです。浅漬けなどいいですよ。そういう工夫が楽しいですね。
vinice
休憩時間は、おやつを食べたり、水を飲んだり、写真を撮ったりと、登山の楽しみのひとときですからね~。
楽しみを盛り上げるための工夫も大切ですね。
休憩をとる良いタイミングはありますか?
下越田氏
まず登山における休憩とは、30分歩いたら10分とるなど、そうしたルールにはこだわりません。
グループによってペースは様々です。ただ、きつい登山道のところは、乗り切ったらその後に休むなど、気持ちにあわせてタイミングを考えてください。休憩する場所は、他の登山者も通るので、邪魔にならない登山道から離れた安全な場所で休憩するようにしましょう。それと夏だったら涼しいところなどを選び、通路にリュックを下ろして、しっかりと休むこと!
中途半端な休憩はかえって体が疲れます。
vinice
荷物や体力づくり、心の準備が整ったら早速登山に行ってみたいですね。
次回はおすすめのコースを教えていただきます。
初心者向け登山コース
vinice
お話を伺っているうちにどんどん山に行きたくなりますね。
初心者でも登れる登山コースを是非ご紹介ください。
下越田氏
では、どんな風に登山を楽しみたいですか?例えば、日帰りで登山を楽しみますか?それとも何泊かして名山を登頂して帰ってきますか?山小屋に泊まってご来光を見たり、温泉入ってから帰るなど、どんな登山がしたいですか?
vinice
もちろん!温泉付きが良いですね。下山した後に、疲れた体をゆっくり休めてから帰ることができるといいですね。
宿泊は、山小屋も良いです。夜は夜空に輝く星を見て、朝はご来光を見ることができると、日頃とは違う世界観を楽しめそうですから。エリアは、関東近辺に住んでいる方が行ける場所をご紹介ください。
私も山小屋を利用したことがありますが、前と違って最近はトイレなどが以前より比較的キレイになっているようですね。寝るスペースに余裕があれば山小屋も快適で楽しそうです。
是非、山小屋を楽しく利用できる初心者向けのおすすめコースを教えてください。
下越田氏
そうですね。私のおすすめは、長野県の北アルプスにある、標高2,763mの燕岳(つばくろだけ)をおすすめします。
ゆっくりと約6時間登ると山の稜線に燕山荘(えんざんそう)という山小屋があります。そこに重いザックを預けて、往復40分でいける標高2,763mの燕岳の山頂を目指すと良いですよ。山頂の大パノラマは素晴らしい景色です。槍岳をはじめ穂高連峰や富士山などのパノラマが展開されます。
この山は日本100名山には入っていませんが、私は日本100名山のひとつだと思います!
vinice
燕岳は聞いたことがあります。私も一度登ってみたい山のひとつですね。登山口はどちらですか?
下越田氏
一般的なコースとしての登山口は、中房温泉です。電車を利用する場合は、大糸線の穂高駅を下車して、中房温泉までバスまたはタクシーで向かいます。朝、中房温泉を9時にスタートすると、夕方には山小屋に到着できます。山小屋で1泊するコースに向いています。下山したあとは中房温泉に入ってくるといいですよ。
燕岳の山小屋、燕山荘(えんざんそう)のオーナーは面白いです。ホルンの演奏や山の話を聞くときっと楽しく過ごせますよ。
vinice
山小屋に宿泊すると、他の方たちとお話する機会もありますよね。以前、星や隕石(流れ星)について語る方もいましたよ。こうしてお話するのも楽しみですね。
下越田氏
もうひとつのおすすめコースは、那須岳(なすだけ)です。栃木県の山で、朝日岳・茶臼岳・三本槍岳の3つの山からなる連峰です。
vinice
3つの山頂尾根を縦走(じゅうそう)するのですか?
下越田氏
いいえ。那須岳には、ロープウェイがあるのですが、これに乗らないで、山の麓の駐車場からゆっくりと登るコースがおすすめです。だいたい登りで4時間くらい。下りをロープウェイに乗ると往復で6時間くらいです。そして、麓にある幸湯という温泉に入ってから帰るといいですよ。
コースを選ぶ時は、行きたい山を選ぶのではなく、自分の体力や経験などを考えてから山を選んでいけば登山は安心です。
また、初心者は登山ガイドと共に登山すると、いろいろペース配分や自然観察もできるので安心です。
vinice
山頂に宿泊しない日帰りコースは、初心者でも十分に楽しめそうですね。ただ山を登るだけでなく、温泉に入るなどオプション目的を持つと楽しみがふくらみますね。
下越田氏
ただ、熊には注意してください。
自然の生態系を崩さないようにするには
vinice
熊??・・・・やはり熊と遭遇する場合もあるのですね!怖いですね~!
そんな私も以前上高地で熊に会ってしまいました!一瞬どうしたら良いのか、動けなくなりましたよ。
下越田氏
でも熊は登山道にはあまり現れないはずです。理由は熊の行動エリアは2キロで、登山道と熊の生息エリアは違います。熊にとっては人間が一番怖いものなので、登山道には現れずに、登山道に平行にして歩いていることがあります。危ないのは山菜採りの人。熊の生息エリアに近づきがちなので危険なことが起こる可能性があります。
今後も、生態系が崩れると何が起こるかわかりませんね。
vinice
生態系が崩れるというのはどういったことでしょうか?
下越田氏
登山に関して申しますと、山にゴミを捨てることは、生態系を乱す原因のひとつです。
熊の話で例えると、山に餌がなくなってくると登山道に落ちている人間が捨てたみかんの皮などを食べにきます。熊は学習能力があるから一度餌を食べた場所は覚えてしまいます。熊の生息エリアに入った登山者を襲うこともあり得るのです。
それとゴミは山に捨ててもバクテリアには分解できません。山の環境に存在していないゴミが、山に残されても、それを分解する生態系がないから、その後も自然に循環することができないのです。だから、絶対にゴミを捨ててはならないのです。 環境と気象・天候・風土にあったところに生物は生きる。人間だって宇宙で住むと言っても無理でしょ。ゴミを捨てちゃだめです。
vinice
登山家の皆さんが呼びかけていますね。ゴミは持ち帰るのが基本。だから、持ち物にもゴミにならないように準備が必要ですよね。
下越田氏
あまりキレイなお話ではありませんが、もし排便を自然界にしてしまうことが
あった場合は、地面を深く、20センチくらいまで掘って、土壌のある場所に捨てること。そして、その上に土をかぶせて石を載せるようにしましょう。そうしないと栄養があるため動物が掘り起こしてしまいます。
もうひとつ、小便をするときに木の根に向けて行うのも駄目です。尿には塩分が入っているので、木の根にかけるとその塩分を動物が取りに来て木の根を荒らしてしまいます。女性はなかなかそのようなことはしないと思いますが注意してください。
vinice
たぶん、女性はトイレ設備などが一番気になる点だと思うのですが~。
屋外で用を済ませることがないように、トイレがキレイで設置箇所が充実した登山コースを選んで行きたいです。人気のあるコースほどトイレはキレイですよね。
下越田氏
本当は簡易トイレを持って行くのが良いです。でも、いくら蓋を閉めても一緒に持ち歩くのは難しいですね。そこで最近、山梨県や長野県では、登山道に小屋を作って、簡易トイレの回収ボックスを設置するようになっています。自然保護のためにこうした動きが必要になっていますし、登山者の協力が不可欠です。
vinice
皆さんが登山するために、至れり尽くせりですね。登山者は他の人々や環境に迷惑をかけないように各々が意識して登山をするように心がけて、自然を楽しみたいですね。
水について
下越田氏
飲料水に関しても注意があります。
山小屋など、トイレの近くの沢の水はなるべく飲まないほうが良いと思いますよ。大腸菌がいっぱいある可能性があります。また、動物の死骸が沢にある場合がありますから安心できません。もし飲むなら、必ず煮沸させること! 湧き水などは良いでしょう。土壌で浄化されているので飲用としても問題はないと思います。
私たち登山ガイドは、水道水を必ず持っていきます。水道水には塩素が入っているので消毒液になります。沢の真水で傷口を洗うと膿んでしまうことがあるのです。山岳ガイドの指導の際にも、リーダーは必ず水道水を持っていくようにと指導しています。
vinice
水道水の効果を知りませんでした。ところで、水はどのくらい持っていったら良いでしょうか?
下越田氏
まず、水の必要量の計算方法を教えましょう。あくまでも基本になりますが参考にしてみてください。
例えば体重45キログラムの女性が3時間歩くとすると・・・・・。
【時間】3h×【自分の体重】45㎏×【5キロカロリー】=675キロカロリー=675cc
675ccの水が必要ということになります。
また、必要エネルギーのカロリーは、水と同量の675カロリーをとる必要がりますが、体内には皮下脂肪があるので、
675キロカロリー ÷ 2 = 337.5キロカロリー 337.5キロカロリーだけ取れば良いといわれています。
vinice
体重が45㎏の女性が1日6時間位歩く場合は、3時間の倍なので、1350ccの水が必要なのですね。 私はだいたい予め1リットル用意して、減った分は途中の水場で補充するようにしていますが、水場がない時は、この計算式を参考にして水の必要量を用意するようにしたいと思います。
登山の歩き方
vinice
では、おすすめコースも聞いて登山道のイメージができてきたと思いますが、登山の歩き方について教えてください。
下越田氏
まず基本はゆっくり歩くことです。 通常、平常のときは人間の体内の血液は、30~40秒で全身をまわります。行動することによって
はぁはぁと息があがってしまうときは3秒でまわってしまうときです。このときは体内から代謝物が出るのでそれを除去するために、酸素をいっぱい吸いましょう。
最初の30分は必ずゆっくり歩くこと。空気中の酸素を取り込む量とのバランスが一致するタイミングがありますので様子をみてください。体調にもよりますがそのタイミングをつかめれば楽に歩けます。
それと、歩き始めるときの服装は寒さ対策より、暑さ対策が必要です。服装のコンディションとあわせて最初の30分で自分の体調をつかむようにします。
vinice
グループで歩くとあせってしまうこともありますが、ここはみんなでゆっくり体を慣らすようにして歩くことが大切なのですね。
下越田氏
歩幅は狭く、勾配に応じて加減して登ります。歩き方は状況によりますが蹴らないこと。これは実技で説明したいですね。
急斜面は更に歩幅を狭めて逆ハの字=V字にして登ったり下りたりします。 下山時は特に事故が起きやすいですから注意してください。疲労によって足元が不安定になり怪我をしやすくなりますから。
自分のペースで歩くことが大切なので、遅い人のペースにグループのメンバーが合わせて歩きます。列の一番後ろほど、ベテランの人が歩くようにします。リーダーは視野の中にグループの人が見えるように間を空けないようにして歩くようにします。定期的に休養をとり、明るいうちに目的地に入るようにしましょう。
vinice
あせらずゆっくり、いろんな景色も見て歩けるように、コースの時間に余裕をみたいですね。
下越田氏
危険な箇所には、ロープが張ってありますが、これを見たらまずは、【危険な場所】であると認識することが大切です。
鎖場やはしごなどでは、手や足を使い3点確保しながら上り下りをします。こうした鎖場は、標高が高い地点の岩場などによく見られます。高い山を登るときはこうした点もあるので注意してください。
山は、標高が高くなるにつれ高い樹が育ちにくくなり岩場の山々になってきます。ちなみに、この辺りの高さを森林限界と言っていますが、樹がなくても山の麓からマイナスイオンは上昇しています。
vinice
森林限界を超えた山から見る景色は、遠くまで見渡せて素晴らしいですよね。登山の魅力です。
ところで、登山するときは登りの人に道を優先するべきであると聞いたことがありますが、ルールなどありますか?
下越田氏
登りが優先など、とくに規則はありませんよ。臨機応変に対応してください。
登山者とすれ違う時は、自然に挨拶するようになります。
そのとき、「どうでしたか?この先危険なところありましたか?」など情報を聴くことも歩くときの参考になります。でも、危険箇所など、鵜呑みにしてはだめですよ。時に自慢する人もいますからあくまでも参考までにしましょう。
自然に対して尊敬の念を持ち、環境に優しく、自然に楽しむことをみつけながら、自然の中に体を置いてみてください。
vinice
いろいろとお話を聞いて参考になりました。登山に行きたくなった方もいらっしゃるのではないでしょうか?
今回のネットセミナーでは、登山に行くまでの準備・心構えのお話が中心となりましたが、いつか実際に下越田先生と登山に行き、
もっと登山の魅力をお伝えできる機会ができるとよいですね。
紅葉はこれからがピークです。是非多くの方が安全に登山を通して自然を楽しんでいただけたらと思います。
先生ありがとうございました。
下越田氏
ありがとうございました。
紅葉シーズン到来!はじめての私の登山
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https://www.vinice.jp/lesson/1878/