講師:伊東 正樵
大日本茶道学会 本部教授 ・ 朝日カルチャー講師
娘時代より約半世紀近くお茶を続けている。現在は大日本茶道学会の本部教授として指導されるかたわら、カルチャーセンターでも講座をもたれるなど広く活躍されています。
茶の湯の歴史
VINICE
日本の文化というと “侘び寂び”の世界といわれます。そんな侘び寂びを体感できるのが茶の湯ではないでしょうか。でも、お茶会に誘われても、作法がよくわからないのでちょっとしり込みしてしまうということないですか?最近では、学校でも茶道を体験する授業があるところも多く、一度や二度はお茶をいただいた経験はあっても、やっぱりちょっと自信がない・・・・。
そこで、今回のネットセミナーでは、日本女性として、これだけは、知っておきたいお茶のマナーを教えていただきたいと思います。
先生 どうぞ宜しくお願いいたします。
伊東先生
宜しくお願いいたします。
そうですね、最近は皆さんお仕事をもたれている女性の方も多く、なかなかお茶のお稽古をされる時間もないということで、敬遠されがちですが、作法自体には全て意味があり、その意味さえ理解していれば、決して難しいことではないんです。
日本人に生まれたからには、茶道の楽しみを味わい、せめてお茶の飲み方だけでも知っておいていただきたいですね。
VINICE
はい。また、日本文化に対しても、外国人の方のほうが知識があって、質問されても答えにつまってしまったなんていう話もよく聞きますし、日本文化を見直す良い機会でもありますので、ぜひ基礎知識から教えていただければと思います。
伊東先生
それでは、まずは、茶の湯の歴史から簡単にお話しましょうか。
VINICE
宜しくお願いします。
お茶の流派
伊東先生
お茶ってもともとはどこから伝えられたかご存知ですか?
VINICE
ん~、中国ですか?
伊東先生
お茶を飲む風習が初めて日本に伝えられたのは、奈良時代(710~784)といわれています。中国へ渡った留学僧によるもので、その頃は貴族や僧侶の間でのみ嗜まれていたようです。当時のお茶は団茶というお茶の葉を固めたものを細かくして、熱い釜の中で煮出したものでした。
VINICE
現在のお茶とはだいぶ違ったものだったんですね。
伊東先生
そうですね。そして平安時代(794~1185)から鎌倉時代(1185~1333)、二度宋へ渡った栄西という僧侶が帰朝し『喫茶養生記』を著し現在のような茶筅(ちゃせん)で点て(たて)出す点茶法を伝えました。そして、飲んで楽しむものだけではなく、病気にも効く健康回復のための薬として飲むようになり、これが次第に武家の間に広まっていったんです。
VINICE
なるほど、今でも抹茶は、カフェイン・ミネラル・ビタミン・などを豊富に含むとして注目されてますよね。すでに この時代からお茶の効用が重視されていたんですね。
伊東先生
そして、お茶の歴史に当初から禅僧がかかわっているということも重要なポイントです。
ですから お茶とお寺というのはとても深い関係なんですね。
僧が修業をするのに 眠気覚ましにお茶を飲んでいたという話もあります。
VINICE
なるほど。
伊東先生
室町時代(1338~1573)になると、新興の武家や守護大名の間で遊びの一つとしてお茶をのむ風習が広がり、お茶を飲んで産地をあてる“闘茶”が流行します。そして権力を誇示する為に室内を飾る中国の“唐物”といわれる高級な茶道具がもてはやされるようになります。
VINICE
ようするに 「利き酒」ならぬ「利き茶」ですね(笑)
伊東先生
そうですね。そしてこのような華やかな茶会も時代とともにやがて影をひそめていき、室町時代中頃には、奈良の僧侶で一休宗純に参禅した村田珠光(1423~1502)が、禅と茶を結びつけ 簡素で落ち着いた草庵のお茶、いわゆる4畳半くらいの狭い部屋での茶会を楽しんだり、茶道具も“和物”という日本で作られたものを使うようになります。
そして この草庵のお茶を簡素にし、北向きの茶室でのわび茶をさらに進めたのが、堺の茶人 武野紹鴎(1502~1555)です。紹鴎は “唐物”(中国産) “和物”(日本産)に加え、 “高麗”(朝鮮産) “南蛮”(東南アジア産)の道具も使いました。
“唐物”(中国産)“和物”(日本産)“高麗”(朝鮮産)
VINICE
やっと 私たちがイメージするお茶の世界に近づいてきました!
でも 私たちは茶の湯というと千利休をイメージするんですが・・・。
伊東先生
武野紹鴎が千利休の先生になるんです。千利休(1522~1591)は堺の商人の子として生まれ、幼い頃から茶の湯を学び、やがて紹鴎の弟子になります。そして茶の名人としての地位を確立し、織田信長・豊臣秀吉に茶頭役として仕えます。 利休はそれまでの複雑なお茶のお点前(おてまえ)を簡略化し、茶室を南向きにし、4畳半の茶室もいっきに2畳や1畳台目にまで小さくしたりし、侘び茶を完成させます。この侘び茶が現在の茶の湯の基本となっているといっていいでしょう。利休の死後、孫の宗旦が優れた門弟を数多く育て、その子孫によって広く一般庶民へと伝えられていき、現在にいたっています。
※台目(だいめ):一畳の四分の三の広さの畳
VINICE
現在の茶道にも表千家や裏千家といった流派がありますが・・・。
お茶は男の世界?
伊東先生
お茶の流派も現在では、かなりたくさんあります。代表的な流派を少し紹介しましょう。
皆さんも良くご存知の 表千家や裏千家といった千家茶道のもとを築いたのが、利休の孫である千宗旦(1578~1658)です。その宗旦には4人の息子がありまして、三男の宗左が表千家・四男の宗室が裏千家・次男の宗守が武者小路千家として3千家が生まれました。宗室の建てた『今日庵』が宗左の建てた『不審庵』の裏側だったことより、裏千家といわれたんです。
VINICE
なるほど!
伊東先生
その他に利休七哲と言われた大名茶人の細川三斉(三斉流)、古田織部(織部流)、その弟子の小堀遠州(遠州流)、続く片桐石州(石州流)、山田宗偏(宗偏流)等々、表千家・天然宗左の弟子、川上不白(江戸千家)、明治の茶道衰退期に田中仙樵により創立された(大日本茶道学会)等たくさんあります。
VINICE
流派によって 作法に違いがあるんですか。
伊東先生
多少細かな部分でそれぞれの流派によっての特徴がありますが、基本となる部分は同じです。
お茶を知ることは 日本文化を知ること
VINICE
お茶の歴史をお伺いすると、僧侶や武士そして大名とお茶は男が嗜むものであったことが分かりますが、現在はどちらかというとお茶は女性が嗜むというイメージが強いのですが、いったいいつ頃からそのようになったのでしょうか。
伊東先生
それでは、もう少し歴史の話をしましょう。利休の死後お茶は、古田織部や小堀遠州などの大名が受けついでいきましたが、江戸時代には、天皇公家たちの間でも盛んに嗜まれるようになります。その後 明治維新によって武家階層の支持者を失った茶の湯は衰退します。すると、高価な茶道具が売りに出されるなどして世間一般にも出回るようになります。もともとお茶というものは、その家に代々伝わる掛け軸や茶道具を拝見するためのものだったんです。そんな時、世間に出回った美術品である茶道具を買ったのが財界人たちで、そういった財界人達による数寄者の茶が盛んになってきて茶の復興がはじまります。現在でも、私達がいろいろな美術館で茶の道具を拝見することができるのも、この財界の人達のおかげですね。
VINICE
昔は、一部の限られた人しか、茶道具を見ることができなかったんですね。
伊東先生
そして、もうひとつ女子教育として茶の湯が採用され、第二次世界大戦以後、女性の茶道人口が増加していきました。
このように、学校で茶の湯を授業として取り入れたり、今まで見ることができなかった茶道具が一般に公開されてきたことや、そして電化製品の普及により家事が楽になり趣味を嗜む時間がとれるようになったことや女性の地位の向上も大きな要因になっていると思いますよ。
VINICE
でも、お茶の歴史を振り返ると、圧倒的に男性の時代のほうが長いんですね。
ちょっと意外でした。
お茶は究極のおもてなし
VINICE
お茶の歴史について 少しは理解できたと思います。
お話にもでてきましたが、お茶ではいろいろな道具を使いますが、美術品としての価値も十分にあります。こういった道具を見る目というものも養わなければならないんですね。
伊東先生
そうですね。お茶というのはただ作法を習うということではなく、お茶を知ることで、日本文化が分かると思っていただいたほうがいいですね。
例えば、お茶の場合常に季節の先取りをします。日本だからこそできることですが、茶会では、掛け軸や花 懐石料理で四季が感じられるおもてなしをしなければなりません。
また、その時の道具類は用の美と言って茶室の中で使われてこそ輝いてきますので、その選び方ひとつにも、亭主のこだわりがあります。すべてに深い造詣をもつことが要求されてくるんです。
もちろん、おもてなしを受ける側もひととおりの知識があるとより多く楽しめますね。
茶道はまさに日本の伝統文化の集大成です。
VINICE
床の間の掛け軸やそこに活けられている花、そしてお道具の焼き物や塗り物まで知識がないとだめということですね。う~ん 奥が深いですね。一夜漬けでどうにかなるものではないですね。とても難しそうですが、ますます興味が湧いてきました。
伊東先生
そうですね。おいしくお茶をいただくのが目的ですから、他はそのための演出と考えてください。
利休は
茶の湯とはただ湯をわかし茶をたててのむばかりなる事と知るべし (利休百首より)
といっています。
ですから、茶道のお稽古の目的は、おいしいお茶をお客様のために点てることです。
そのために、庭や茶室のお掃除をして、道具の組み合わせに知恵をしぼり、床に軸や花を飾り、懐石料理やお菓子を吟味するんです。その準備に数ヶ月を費やすなんてこともあるんですよ。
VINICE
え~、一大イベントですね。
伊東先生
何より、お客様に精神的な満足感や充実感をあたえることが大切なんです。千利休は秀吉が出陣する前にお茶を点てたといいます。戦にそなえ、精神統一させることが目的だったのではないでしょうか。2畳たらずの狭い空間で、相手の心臓の鼓動も聞こえるくらいの距離でお茶をたて振舞う。相手が今何を考えているのかが手に取るように分かるそんな空間で相手に精神的な安らぎを与える、まさしく思いやりの精神です。
ですから、もてなされる立場で、あまり堅苦しく考えず、最初は見よう見真似でいいので、例えば、お隣の方の真似をしてみてください。経験を重ねることで、作法も身についてきますし、興味も湧いてきます。そうすればおのずと、知識もついてきますよ。
VINICE
わかりました。
茶会と茶事
VINICE
さて、第1回でお茶の歴史を教えていただいたところで、今回は、これだけは知っておきたい基礎知識を先生に教えていただきたいと思います。
お茶をいただくのに、よく茶会とか茶事(茶の湯)という言葉を聞くのですが、どのような違いがあるのでしょうか。
伊東先生
茶事というのは、懐石料理をいただく初座(しょざ)と濃茶・薄茶をいただく後座(ござ)の二部形式になっています。茶室に少数のお客様を招き行います。茶事の一部をとりだして、後座のお茶をいただく部分を行うのが茶会です。大寄せ茶会といって一日に何百人も参加する大茶会も催されています。要は、茶会のフルコースが茶事ということです。
VINICE
なるほど。お菓子とお茶をいただくだけだと思っていましたが、食事もついているんですね!(笑)
伊東先生
懐石料理は、一汁三菜といって、ご飯に汁と向付、煮物、焼物を基本とした献立とします。熱いものは熱いうちに召し上がっていただくため、亭主自らが運びもてなしの心をあらわします。いただく側も、亭主の心を受けおいしくいただく様、ある程度の作法は覚えておいたほうがいいですね。にぎやかに食事をするのとはちょっと違ってきますね。
★亭主(ていしゅ):茶事(茶会)の催し主のこと。
ご飯・汁・向付
VINICE
実は、VINICEスタッフも今回茶事を体験させていただきました。
初体験で、ちょっと緊張しながらいただいたのですが、目でも舌でも季節を満喫させてくれる献立に、もう大満足。本当においしかったです。お茶ではお料理の腕も重要になってきますね。
伊東先生
そうですね。(笑)
たまには、静寂の中で、季節を感じながら食事を召し上がるのもいいのではないですか?
濃茶と薄茶
VINICE
はい。次にお茶なんですが、濃茶と薄茶というのがありますが・・・。
伊東先生
濃茶は薄茶の約3倍くらいの濃さで練り上げます。薄茶がひとりひとりに点(た)てられるのに対して、濃茶は一碗を客人同士で回し飲みします。一碗を分け合うことで、同胞の意識を高めるのです。
とても濃いので胃を保護する意味もあり、濃茶の前に懐石料理をいただくのです。
儀式的な濃茶に対して、薄茶はリラックスした雰囲気の中で談話を楽しみながらいただくお茶です。
正客と亭主の会話に加わっても構いませんが、まずは聞き上手になることから始めましょう。
★正客(しょうきゃく):メインとなる客で最も上座に座る。茶事は本来、正客一人のために催されるもので、他の客はお相伴とされている。
VINICE
お茶の前に お菓子が出ますが、お菓子にも何か決まりがあるんですか?
伊東先生
主菓子(おもがし)と干菓子(ひがし)があります。
主菓子は懐石料理の最後に出されます。茶会では濃茶用の菓子として出されます。
生菓子で、その味だけでなく見た目の美しさやつけられた銘から季節感を楽しむことができます。
干菓子は、薄茶の前に出されます。可愛らしいものやいろいろな形のものがあります。どちらも懐紙にとっていただきますが、主菓子は楊枝を使って、干菓子の場合は手でいただきます。
★懐紙(かいし):客が懐に入れ持参する紙。お菓子をとったり、器をふく時に使う。
主菓子(おもがし)干菓子(ひがし)
茶の湯の効用
VINICE
このような 究極のおもてなしのお茶ですが、その効用とはなんでしょうか。
伊東先生
まずは、癒しの効果でしょうか。
日常の雑事から離れ、亭主のおもてなしのこころ使いの中で、季節を感じながら一服のお茶をいただくことで、ストレス解消にもなり、また疲れもとれてすがすがしい気持ちになれます。
そして、お茶に含まれるカテキンやビタミンが健康を増進しますので、お茶をなさっている方は、年齢をかさねても若々しく元気です。
VINICE
なるほど、忙しい人ほどぜひお茶をやってほしいですね。
伊東先生
また 茶道は礼に始まり礼に終わると云われ、真・行・草の3種の礼を使い分けます。
その他懐石料理での箸の持ち方やその使い方、挨拶や季節の話題でのお話しなど、日常にも通じるマナーを身につけることができます。「躾」とは身を美しくすると書きますが、礼や食事作法相手に対する心配りを茶道で学ぶことが「躾」にも通じるのです。
VINICE
なるほど。茶の湯というと花嫁修業というイメージが強いのは、そういう理由からなんですね。
伊東先生
その他に、普通は美術館でしか見られないような貴重な道具でも実際手にとってお茶をいただいたり、真近に拝見することができるというのは、茶の湯以外ではなかなかないことですよね。そのような芸術品に触れることによって、知識もつきますし、また本物を見る目も養われるということです。
VINICE
一石二鳥以上ですね。お茶というとただお茶の入れ方を学ぶものというイメージしかなかったんですが、もっと奥の深いものであることがよく分かりました。
VINICE
さて、いよいよ実践編です。突然お菓子とお茶がだされてしまったら、また、女性ならこれだけは知っておきたいマナーを先生に教えていただきたいと思います。
伊東先生
そうですね。最近では畳や襖のある生活が少なくなってきていますので、お茶のいただき方の他にも少し基本的なことも含めてお稽古しましょうか。
まずは身だしなみから・・・
VINICE
それでは よろしくお願いいたします。
まずは、服装なんですが、茶会や茶事というとどうしても着物を着てというイメージがあるんですが、洋服ではいけないんでしょうか。
伊東先生
いけないということではありません。ただ 正式な茶会では着物を着られた方がよろしいかと思います。最近では、着物を着る機会も少なくなってきていますので、そのような機会を利用して着物をお召しになるのもいいのではないでしょうか。
ただ、気軽に参加できるような茶会では洋服でも大丈夫ですよ。
VINICE
では、洋服で参加する場合の注意点はありますか。
伊東先生
まず、茶会では正座をしますので、ひざが隠れる長さのスカートにしてください。そして、着物の場合は必ず替足袋を持参し履き替えますので、足袋のかわりに白いソックスを持っていってください。歩き方としてはすり足ぎみに歩きますので、くれぐれもストッキングのままはNGです。あとは、ワンピースでもブラウスとスカートでもとにかく清楚を心がけていただければ大丈夫です。
VINICE
わかりました。メイクやアクセサリーも清楚を心がければよろしいですか。
伊東先生
アクセサリーは外されたほうがいいです。指輪、ネックレス、時計はつけないほうがいいですね。
大切なお道具を拝見するときに指輪があたったりして傷をつけたら大変です。ですからネックレスもかがみこんだ時にぶら下がってくるようなものは避けましょう。爪もできるだけ短いほうが好ましいですね。マニキュアも控えたほうがいいでしょう。
ヘアはお辞儀をしたときに茶碗にたれてこないようまとめておきましょう。
メイクは控えめで、特に口紅は茶碗につくと取れませんので、極力押さえてください。
また、茶室ではお香を焚きますし、お茶の香りを損ねますので、香水はつけないほうがいいですね。
VINICE
次に持ち物なんですが・・・。
伊東先生
古帛紗(こぶくさ)・帛紗(ふくさ)・懐紙・菓子切り・扇子、その他ハンカチを持ちますが、気軽な茶会でも懐紙くらいは用意したほうがいいですね。右下の写真は、懐紙と菓子切りがセットになっています。普段からバックに入れて持ち歩かれたらいかがですか。
懐紙と菓子切りがセットになったもの
普段の身だしなみとして、持ち歩くようにします。
立ち居振る舞い
VINICE
それでは いよいよ作法について教えていただきたいのですが・・・。
伊東先生
作法と聞くと堅苦しい、めんどくさいものと思いがちですが、それは誤解です。
それは、他人と行動するための約束事であり、あるいは無駄をなくして、そして美しい姿で行動するために決められていると考えていただければいいでしょう。
いかに外見が美しくても、食事の仕方が不作法だったら幻滅ですよね。ですから他人に不快感を与えない、他人を思いやることが大切なんです。
VINICE
なるほど。そう考えると お茶の席だけでなく普段から実践しなければいけないことなんですね。
伊東先生
そうです。ですからあまり肩に力を入れないで、自然に出来るようになることが大切です。
まずは、姿勢からいきましょう。
最大のポイントは 背筋をピンと伸ばすということです。立っても座っても背筋が伸びていれば美しく健康的に見えますよね。特に座っている時は猫背になりがちですから、肩の力を抜き胆田といって下腹に力を入れて背筋を伸ばし両足の親指を重ねて座りましょう。そして時々左右の親指の上下を変えてみてください。血流が良くなってしびれ予防になります。この姿勢で馴れてしまうと、逆に正座していたほうが楽に感じてきますよ。
VINICE
足がしびれてなんて言っているうちは、まだまだ修行が足りないということですね。(笑)
伊東先生
座った時の手は左手で右手を包み込むようにしてひざの上で軽く組みます。(流派によって右左の違いはあります)。立った時は力を抜いて体の横におきます。ぶらぶらさせると見苦しいでしょ。
左手で右手を包み込むように
次に、挨拶にいきましょう。お辞儀の仕方には深さの違いで真・行・草の三つの形があります。
最も丁寧なのが「真の礼」で顔が畳から7~8寸(21~24cm位)、「行の礼」は30~40cm位、「草の礼」は両手指先をつけて手首をのばし軽く一礼します。頭だけ下げたり、相手より早く上げすぎたりしないよう気をつけましょう。そして一番大切なことは形だけでなく心を込めるということです。
「真の礼」顔が畳から7~8寸
(21~24cm位)「行の礼」
30~40cm位「草の礼」両手指先をつけて
手首をのばし軽く一礼
VINICE
これはまさしく普段から実践しないといけないことですよね。
また、座る時に座布団を使いますが、それにも何か決まり事があるんでしょうか。
伊東先生
まず、茶室は狭いので、茶室で使用する座布団は皆さんが一般的に目にするものより小さめです。この座布団はよく見ると一箇所だけ輪になっている部分があるんですが、これが座った時に正面にくるようにして使います。ですから、来客で座布団をお出しする場合も気をつけてくださいね。
そして座布団への座り方は正面からと脇からとで違います。
座布団の上に立ったり、裏返したり、二つ折りにするのは失礼にあたりますので注意しましょう。
VINICE
正面から座るのはマナー違反かと思っていました。
伊東先生
茶室は狭いですので、正面から座ります。あと、結構皆さん勘違いされているのが、座っている前を通るのはいけないことだと思っていらっしゃって、座っている後ろを無理やり通る方がいますが、狭い茶室では、前を通ります。
そして、立ち上がる時も頭を揺らさないようまっすぐに立ちましょう。決してどっこいしょとは立たないでくださいね。歩く時は 下をあまり見ずにすり足気味で歩きましょう。
輪が手前です。
VINICE
静寂の中で、畳と足袋のすれる音を聞くと背筋が伸びる気がします。
また、小さい頃によく 畳の縁や座布団は踏んではいけませんと言われた記憶があるんですが。
伊東先生
そうですね。その通りです。ちょっと余談ですが、昔はいつどこから刺客が狙っているかわからなくて、縁の下に刺客が忍び込んだときに、畳の縁の部分から刀の刃が差し込まれるキケンがあるので、絶対畳の縁を踏んで歩いてはいけないといわれました。これは笑い話ですが 絶対忘れませんよね。
VINICE
それは 結構信憑性がありますね!
伊東先生
次は襖の開け方にいきましょうか。
襖の前に座り、開ける方向と逆側の手を引き手にかけ、まず手の平が入る程度開けます。
次に同じ手を下から8寸と言って24㎝位のところに差込み自分の体の中心まで静かに開けます。そして今度は逆の手に変えて残りを開けます。このとき全部開けてしまわずに、締める時に持ちやすいよう襖の引き手の分くらいは残しておきましょう。
締める時は、開いている襖に近い方の手で襖の縁を逆手でとります。そして体の中心まで閉め、今度は逆の手に持ち変え、手の甲が柱につくまで閉めます。残りは引き手に指をそろえて閉めます。
空いている手は ももの上においてくださいね。
開ける方向と逆側の手を引き手にかけ、まず手の平が入る程度開けます同じ手を下から8寸と言って24㎝位のところに差込み自分の体の中心まで静かに開けます
逆の手に変えて残りを開けます開いている襖に近い方の手で襖の縁を逆手でとります体の中心まで閉め、今度は逆の手に持ち変え手の甲が柱につくまで閉めます引き手に指をそろえて閉めます
VINICE
なるほど。ひとつひとつの動作に意味があるんですね。
伊東先生
常に合理的に動けるよう考えられているんですよ。あとは、いかに美しく見えるかを意識していただければ大丈夫です。ポイントは指をそろえることで細くきれいに見えます。お茶では、この指先をきちんとそろえておく所作が多いですね。
VINICE
ありがとうございます。普段から心がけたいと思います。
さあ、次回はいよいよ お茶をいただきます。
VINICE
さて、いよいよお茶をいただきます。先生よろしくお願いいたします。
伊東先生
まず座る位置ですが、上座・下座をよく考えて座るようにいたしましょう。
一般的には、床に一番近い位置が上座となり正客が座ります。
そして座る場合は、畳の縁から自分のひざの間が8寸(約24cm)離れるように座ります。まずお菓子が出されます。
懐紙を出し、お菓子を懐紙に取ります。主菓子の場合はお箸を使いますので、懐紙に取ったあと懐紙の端で、箸先を清めることを忘れないでください。(懐紙は輪の方を自分の側に向けて使います)そして、次客がいらっしゃる場合は、最初に“お先に”の意味の次礼も忘れずに。
VINICE
挨拶もお箸を清めることも、マナーとして考えれば当然のことなんですよね。
伊東先生
そうなんです。すべて自然の動作なんですよ。
そしてお茶ですが、ここでは薄茶のいただき方をお稽古しましょうね。
まず正面にお茶が出されたら、次客がいらっしゃる場合は“お先に”と軽く礼をします。そして、亭主に向かって“頂戴いたします”と丁寧に一礼します。
VINICE
礼については、前回教えていただきました。(第3回を参照ください)
伊東先生
次に右手でお茶碗をとり、左掌にのせ軽く押しいただき(うやうやしくささげて)、感謝を表します。
そして、お茶碗の正面に口をつけるのを避けるため、右手の人差し指と親指でお茶碗の向こう縁をつまみ、時計回りに約90度まわしてください。このとき、お茶碗によっては、飲み易いように薄くなっている部分があるものもありますので、よく注意して見てください。
一口飲み「大層結構でございます」と右手をつき、服かげん(点て加減)の挨拶をします。
残りを幾口かで飲み、最後はちょっと息を吸い込むようにすっと音をさせて飲み切ります。
できるだけ泡も残さないで飲むといいでしょう。
そして、口をつけたところを指で軽くぬぐってください。指先は懐紙でふきます。
今度は時計と逆回りで、お茶碗の正面を元に戻し、畳の縁の外側にお茶碗を置きます。
くれぐれもお茶碗の正面から飲まない様に注意しましょうね。
お茶椀の持ち方お茶をいただく
拝見は第2回にお話ししたように低い位置でいたします。
まずは全体を拝見します手に取って低い位置で拝見します
VINICE
お茶碗を回すのもちゃんと意味のあることなんですね。
伊東先生
はい。作法は無駄を無くして、合理的に美しく行動するための決まりですから、ひとつひとつの意味を知っていただくことが大切です。
VINICE
ただ単に形だけを覚えるのではだめというわけですね。
伊東先生
そうです。もてなす側が心を込めて点てたお茶やお菓子を、いただく側も大切に扱っていただくための手順ですから、その気持ちが自然と動作に現れてくることが大切です。
VINICE
作法というと、どうしても堅苦しく考えてしまいがちで、間違えたらどうしようという心配が先に立ってしまうんですが、今回先生のお話をお伺いしてちょっと安心しました。
伊東先生
それはよかったです。でも一番大切なのは、出されたお茶やお菓子を美味しくいただくということも忘れないで下さいね。そして、今回お話した作法は、お茶のためだけではなく、普段の生活に十分生かしていただければと思います。
「和敬静寂」(わけいせいじゃく) 「一座建立」(いちざこんりゅう)の語の示すように亭主と客がお互いの立場を思い、相手を敬い、「一期一会」の楽しいひとときに感謝して、絶対に相手に恥ずかしい思いをさせないことが茶の心です。
日常生活でも、このように配慮する気持ちを大切にしてください。
「日々是好日」(にちにちこれこうにち)の生活が送れると思いますよ。
VINICE
はい。それは日々の生活に大切なことですね。心がけていきたいと思います。
それに、美しい立ち居振る舞いができる女性って憧れますよね。
伊東先生
女性もどんどん社会に進出している時代ですし、海外にも気軽に出かける時代です。生活様式もますます西欧化していますが、ぜひ、日本の伝統文化のすばらしさも受け継いでいっていただきたいです。
また、日常からちょっと離れ、静寂の中で着物を着てお茶をいただくのもひとつのストレス解消になります。忙しい毎日の中で暮らしていらっしゃる方ほど、ぜひ体験していただきたいですね。
VINICE
はい。日本女性として恥ずかしくないよう、しっかりとマナーを身につけていきたいと思います。
ありがとうございました。
大日本茶道学会
知っておきたいお茶のマナー
https://www.vinice.jp/wp/wp-content/uploads/2016/12/te-2.jpg
https://www.vinice.jp/lesson/1509/