Part1 横浜のジャックとキング
港町横浜には今も旧きよき時代の建物が大切に保存されています。
第1回目は、そんな中でも名建築といわれた2つの建物を紹介します。
5月のランクアップセミナーの会場となったのがここ横浜開港記念会館です。
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JR京浜東北線関内駅から徒歩10分、みなとみらい線日本大通り駅徒歩1分に立つこの建物は、大正6年竣工以来、“ジャック”の愛称で横浜の人々に愛されてきました。
かつて外国船の船員たちは、横浜港から見える3本の塔をトランプになぞらえ、“キング”“クィーン”“ジャック”と呼んだそうです。
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“キング”は神奈川県庁、
“クィーン”は横浜税関、
そして“ジャック”が横浜市開港記念会館です。 |
キング |
クィーン |
ジャック |
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“ジャック”という愛称の高くのびた時計塔と、赤いレンガと白い花崗岩の横縞模様が特徴のこの建物は横浜開港50年を記念して市民からの募金をもとに建てられました。
時計塔の部分は地上5階建て、外観はネオルネッサンス様式でまとめられています。
関東大震災の時に外壁を残し、屋根と内部を焼失してしまいましたが、その後修復をかさね、平成元年に今の姿によみがえりました。
もともとは、公会堂としてつくられた建物で、大阪の中ノ島公会堂とならぶ傑作のひとつといわれています。
横浜市開港記念会館と日本大通リをはさんで向かいにあるのが、“キング”の愛称の神奈川県庁です。
昭和3年に建設されたこの建物は、帝冠様式といわれ、屋上から雄々しく塔がそびえたっています。
Part2 yokohamaノスタルジー
Part1に引き続きPart2も横浜でのご紹介です。
今回は、ノスタルジックな雰囲気を楽しんでいただける2つの建物を紹介しましょう。
横浜山下公園のイチョウ並木を歩いていくと、“AD 1927”と刻まれたメダリオンが見えてきます。
輝かしい歴史と伝統をもつ“ホテルニューグランド”は、横浜のシンボルとして今も静かに時を刻み続けています。
外観デザインは控えめで、町並みにしっくり溶け込んでいます。
2年前、VINICE CLUBのランクアップセミナーをここで開催させていただきました。
明日に備えるボディ&メンタルメンテナンス セミナー報告へ
この建物の見所は むしろ内部です。
正面の扉を入ると 目の前には階段が。そこを上ると、かつてのフロントがあったロビーが。
港を一望できるよう、当時としてはめずらしくロビーを2階部分にもってきたことも 港町横浜のホテルならではの配慮です。
高い天井、柱、照明、そこここに東洋的趣味の装飾が施され、重厚な雰囲気の中に歴史を感じさせてくれます。
そんなクラシカルムード漂うロビーで、椅子の手掛け部分に天使の顔を発見!
外国人居留地だった山手エリアには、今も多くの洋館が残っています。
その中のひとつ、
とんがり帽子の三階部分が特徴的なのが「外交官の家」です。
山手イタリア山庭園の一角に立つこの建物は、その名のとおり外交官であった内田定槌の私邸で、世田谷に建てられていたものを2年かけて移築復元されたもので、国の重要文化財に指定されています。
設計はアメリカ人のガーディナー。立教大学の講師をつとめるかたわら教会をはじめ、さまざまな建築も手がけました。
どこか堂々とした中にも華麗な印象を受けるこの建物は、アメリカンビクトリア様式の建物です。
外交官の邸宅とあって、内部は純洋風で、1階はサンルームや応接、食堂などパブリックなスペースとなっており、当時VIPを招いていたのでしょうか、重厚で洗練された装飾が当時を忍ばせてくれます。
そこここに配置されたステンドグラスもこの館の見所です。
ほの暗い室内から陽光に輝くステンドグラスを眺めていると、ついつい時のたつのを忘れてしまいそうです。
室内には、当時のかたちに修復された家具類や調度品も設置されており、明治末期から大正にかけての上流家庭の生活スタイルがそのまま再現されています。
そんな 外交官の家でちょっとおもしろいものを発見!
まずは、1階のサンルーム。
一見腰板にみえる部分が、つまみをスライドさせるとガラリのようになっていてスリットがあき外部の空気が取り入れられるようになっています。
これは、日本の無双窓の手法をとりいれたものですが、洋風デザインにも違和感なく溶け込んでいるのにはびっくりです。
そしてもうひとつは、3階の納戸の床にあります。
一部分の床板が開くようになっているんです。
大型のトランクがせまい階段を通らないため、床に穴をあけ、そこからロープで吊って出し入れしたそうです。
まさに外交官の家だからこそある仕掛けですよね。
現在 建物の一部は喫茶室として公開されていますので、ゆっくりとお茶をたのしみながら、当時の優雅な生活に思いをはせてみてはいかがでしょうか。
今回紹介した外交官の家以外にも、山手地区には洋館がたくさん残されています。
ノスタルジックな雰囲気にひたりながら、散策してみてはいかがですか。
また この山手洋館、クリスマスの時期になるとそれぞれの洋館が、ある国をテーマにして飾りつけやテーブルコーディネートをします。
昨年は、外交官の家はカナダのクリスマスでした。
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とんがり帽子が目印
3階の窓からは横浜港が・・・
重厚な趣のある玄関
“無双窓”風腰板
柔らかな陽が差し込む
サンルーム
3階の納戸には意外な
しかけが・・・
当時のままに家具も
修復されています
ステンドグラスも見所のひとつ |
外交官の家(内田定槌邸)
横浜市中区山手町16番地(山手イタリア山庭園内)
TEL: 045-662-8819
開館時間 9:30~17:00(7月、8月は18:00まで)
休館日 第4水曜日(祝日の場合はその翌日)
年末年始(12月29日~1月3日)
入場料金 無料
Part3 フランクロイドライト
日本の近代建築に大きな影響をあたえた建築家 フランクロイドライト。アメリカが生んだこの偉大な建築家、その人生も波乱に満ちたものでした。
日本をこよなく愛した彼の作品が今も大切に保存されています。
今回は東京と神戸からレトロスポットをご紹介しましょう。
2年前 VINICE CLUB アロマのランクアップセミナーを開催したのがここ自由学園明日館です。
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池袋西口の喧騒を抜けた、閑静な住宅街の中に明日館は今もひっそりと建っています。
設計したのは、『旧帝国ホテル』建設のために来日していたフランクロイドライト。
高さをおさえ、大地に根ざしたように横に広がるたたずまいからは、常に自然との共存を目指していたライトの強い思いが感じられます。
前庭をはさんで、中央棟から左右シンメトリーに配置されています。
飾り気のないシンプルなたたずまいですが、質素な中にも美しさと気品が感じられます。
かつてライトがアメリカで手がけた平原住宅(プレーリーハウス)様式をイメージさせます。
窓にはライトの特徴ともいえる幾何学的なデザインがほどこされ、それが見事に建物と調和しています。
建物の中にも、ライトらしいデザインがそこここに施されています。
大谷石で作られた柱や独特なデザインの照明。
決して高くない天井高の中、吹き抜けをうまく利用した空間のとりかたには、いつもながら感動すら覚えます。
この自由学園の創始者は、大正デモクラシーの中、自由主義教育運動を進めた羽仁もと子・吉一夫妻。
その教育理念に共感したライトは、自由主義教育のための理想の学びやをつくるため、限られた資金・資材にもかかわらず設計を引き受けたのです。
この当時の学校建築は建物の中央部分に玄関をもうけるのが一般的でしたが、この明日館の中央には教師も生徒も集まれるホールや食堂があり、生徒が出入りする玄関は両サイドにレイアウトされています。
玄関というその建物の顔を中央にもってきて格式を重要視するのか、それとも教師と生徒という人と人の結びつきを一番と考えるか、そんなところからも、ライトがこの建物に教育の理想像を求めたことがうかがえます。
ライトが一生涯テーマとした、人間性豊かな建築がまさに教育の場としてふさわしい空間をつくりだしたのです。
ライトは後年、明日館についてこのように語っています。
『自由な心こそ、この小さな校舎のデザインの基調である。木と花が一つであるように、校舎と生徒もまた一つである。』
見学以外にも、コンサートや公開講座、そしてウェディングにも利用できる施設として大切に保存されています。
毎月第3金曜日には夜間見学も可能です。
ライトアップされた明日館もまた昼間とは違ったあじわいがありますよ!
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幾何学的なデザインの窓
大谷石で作られた柱
教室は現在も各種セミナー
などで使われています
生徒と教師が一緒に食事をとった食堂
天井から下がった照明も
ライトによるデザイン
夜はまた違う顔に |
自由学園明日館
東京都豊島区池袋2-31-3
1921年創設。木造。
1997年に国の重要文化財に指定、
保存修理が行われる。
2001年修復完了し以後文化施設として
一般公開されている。
内部の家具もライト自身がデザインしたもの。マホガニーを好んで使っています。
これも、天然木ならではの重厚感や自然な素材感をとりいれたかったライトのこだわりです。
3階の和室はライトの設計にはなかったものの、山邑家の強い要望によって実現されました。この和室の欄間には、周辺の草花を抽象化したライトならではの装飾が施されています。
廊下に並ぶスリット窓には銅版のすかし模様がほどこされ、葉っぱのすきまから差し込む木漏れ日を思わせ、光と影の巧みな演出を見ることができます。
1974年に国の重要文化財に指定された山邑邸。阪神大震災で一部損壊しましたが、見事に修復され、現在は一般公開もされています。
20世紀最高の建築家といわれたライトの傑作は、ほぼ1世紀を経た今でも、そこを訪れる人々に新しい感動を与えてくれます。
神戸を訪れる機会があれば、ぜひ一度たずねてみてください。きっとあなたを魅了してくれますよ。
山邑邸(ヨドコウ迎賓館)
兵庫県芦屋市山手町3-10
1924年竣工。RC造。
1974年に国の重要文化財に指定。
現在、水・土・日・祝日のみ見学可能。
開館時間は10:00~16:00(入館は15:30まで)
Part4 大都会東京のレトロな穴場
普段何気なく通り過ぎている・・・
そんなところが、結構穴場だったりして。
実は、大都会東京にもこんなレトロな場所が、という2つの建物をご紹介しましょう。
一度は訪れたことのある東京駅。おそらく東京やその近郊に住む人にとっては一番身近にある近代建築ではないでしょうか。
この建物は、大正3年に近代日本の建築界を築いた辰野金吾の設計でつくられたもので、赤レンガと白御影石が織りなす縞模様が美しいスタイルは辰野式とまで言われ、当時の国家的様式の模範とされました。
赤レンガの建物が歴史を感じさせてくれますが、実はこの建物昔のままではありません。
東京大空襲の時、屋根とインテリアを焼失し、3階建てを2階建てにし、大ドーム屋根を縮小して復旧されたのが現在の姿なのです。
現在 三角屋根となっている両翼の塔屋は、元々は丸みを帯びた巨大な八角ドームでした。
また、皇居を真向かいに見る東京駅は、皇室専用駅にして、帝都の表玄関としてつくられました。
横に300mもあるこの長い建物、当時は、正面中央は皇室専用として使われ、一般出入り口は両端に設けられました。
ただ、入口・出口専用としたため、間違って入口から出ようとした場合は、また階段を上り300m歩いて出口に向かわなければならないという摩訶不思議な構造になっていました。
この、皇室専用口は今も変わらず正面中央に位置しています。
天皇陛下が使われる時、国旗が正面バルコニーに掲げられます。
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縞模様が美しい外観
正面には皇室専用の車寄せが
このドーム天井の下地にはゼロ戦の
ジェラルミンが
竣工当時の東京駅の姿
ホームの片隅にひっそりと残る柱飾り
赤レンガと白御影の対比が美しい |
この東京駅内部にも見所はたくさんあります。
いくつかご紹介しましょう。
改札を出たホールの天井を見上げれば、そこにはドーム天井が。これは、ローマのパンテオン神殿にならったと言われています。
この見事なドーム天井の下地には なんとゼロ戦用のジェラルミンが使われているんです。敗戦後、不要となった材料を復旧時に再利用したということなんです。
現在、ステーションギャラリーという美術館として利用されている場所は、当時鉄道局としての事務空間があった場所です。
ここでは、今でも建設当時のレンガ壁が剥き出しにされた空間を味わうことができます。
そして、3番線と4番線の南の端に残るのが 当時のプラットホームの屋根です。
わずか十数メートルしか残っていませんが、鋳物製の柱の上部にはアカンサスの葉のデザインが。
今では、気づく人もなくひっそりと残っています。
この東京駅のある丸の内側も、次々と新しいビルが建てられ、様変わりしていきます。
レンガ建築も東京駅を含め、数えるほどしか残っていません。
新しい顔と旧きよき時代が同居する丸の内界隈、ぶらっと散歩してみるのも楽しいですよ。
旧前田侯爵邸は東京目黒の駒場公園内に建っています。この駒場公園も前田家の広大な敷地を整備したものです。
この建物は、旧加賀百万石・前田家の第16代当主・前田利成侯爵(1885-1942)の本邸として、昭和4年に立てられました。
ヨーロッパ建築の粋を集めてたてられたこの屋敷は、当時“東洋一の豪邸”といわれたそうです。
外国の要人を迎い入れる為の迎賓館として建てられたこの邸宅には、立派な車寄せがあります。
外壁に張られたスクラッチタイルと銅版葺きの屋根が品格と重厚感を演出しています。
この建物は、イギリス後期ゴシック様式を簡略化した、チューダー様式の建物で、武蔵野の面影を残す田園風景が見事に調和しています。
現在は残念ながらみることができませんが、その内部も当時の姿のまま保存されています。
迎賓館だけあって、そのインテリアも豪華です。天井や柱・階段の手摺には王朝風の装飾が施され、各部屋には大理石のマントルピースが設置されています。
壁に貼られたシルクや、建具にはめ込まれたステンドとなんとも豪華なインテリアからは、当時の上流社会の生活を垣間見ることができます。
また、このようなヨーロッパ調のインテリアに、唐草や雛菊の紋様をあしらった和風のデザインテイストが見られ、
和風というか、オリエンタルテイストがうまく溶けこんでいます。
この建物が建つ駒場公園は、のんびり散歩する人や、芝生で遊ぶ子供達に開放されています。
休日の昼下がり、かつての上流階級の優雅な生活ぶりを思い浮かべながらのんびりと散歩してみてはいかがですか。
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スクラッチタイルと銅版葺きの屋根
優美な柱のレリーフ
シンプルなステンドグラス
大理石のマントルピース
細かな所にも装飾が施されています
唐草模様
スクリーンの透かし模様には
オリエンタルテイストが
大理石の柱 階段の手摺
照明や家具からも当時の優雅な暮らしぶりが垣間見られます |
所在地:目黒区駒場4-3-55
井の頭線 駒場東大前下車 徒歩8分
開館:土・日・祝祭日のみ
AM9:00~PM4:30
問い合わせ先
東京都教育庁生涯学習スポーツ部
計画課文化財保護係
TEL 03-5320-6862
めまぐるしくその姿を変えていく都会にも、そこだけで時間が止まってしまったかのような場所があります。
たまには、そんな場所で遠い昔に思いをはせてみてはいかがですか?
レトロ建物ガイド
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