講師:天野 秀隆氏(写真右)
マルハニチロ株式会社 加工食品ユニット
グロッサリー事業部 部長
2014年4月1日、マルハニチロホールディングス、マルハニチロ水産、マルハニチロ食品、マルハニチロ畜産、マルハニチロマネジメント、アクリフーズの6社は合併し、マルハニチロ株式会社として新たに誕生いたしました。
マルハニチロ(株)ホームページ:http://www.maruha-nichiro.co.jp
VINICE
缶詰というと「マルハ」や「あけぼの」のマークの、魚の缶詰が頭に浮かびます。おそらくどこの家にも小さいころからキッチンにはさばの缶詰があったのではないでしょうか。今回は、改めて「缶詰」について教えていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
MARUHA
よろしくお願いします。
VINICE
缶詰は、いつごろからつくられるようになったのですか?
MARUHA
今から約200年前の1804年、フランスでつくられた「びん詰め」が最初です。金属缶やびんに食物を入れて密封し加熱殺菌をして保存するという缶詰の原理を、フランスの二コラ・アペールが考え出しました。「びん詰め」の栓はろうで固められて密封されているものでした。これは、ヨーロッパ各国へ戦力を広げていたナポレオン率いるフランス軍が、軍用食料として「びん詰め」が活用され普及していきました。その後、「ブリキ缶」になっていったのはイギリスで1810年にピーター・デュランによって発明されました。
やがて間もなく缶詰工場ができました。当時の缶を開封するには、ハンマーでたたき割ったそうです。さらに1821年にアメリカに渡って缶詰の製造が本格化しました。このときもまた、1861年にはじまった南北戦争の軍用食料として需要が急に増えていきました。
VINICE
日本ではいつごろからつくられたのでしょうか?
MARUHA
日本は、1871年に長崎で松田雅典という人がフランス人の力を借りて、いわしの油漬缶詰を作ったのがはじまりです。明治政府は産業振興のために西洋文化を積極的に導入し、缶詰の製造をはじめました。
内務省では1874年から缶詰の研究に着手して、そのあと1877年に日本初の缶詰工場、北海道開拓使石狩缶詰所が誕生して石狩川のサケを原料に10月10日「さけ缶詰」の製造が開始されました。
VINICE
さけ缶が最初なのですね。
MARUHA
その後、缶詰が工業的に生産されるようになっていくわけですが、昭和初期には、さけ、かに、まぐろ、いわし、みかんなどが缶詰になって重要な輸出品となっていきました。まだたいして生産量は多くありませんでした。商業生産開始といえるのは、1910年です。その後イギリス向けに、紅サケの輸出、白鮭の缶詰を輸出するようになりました。そして、本当に日本に普及したのは、関東大震災(1923年)の時に配給食糧として缶詰が使われたことがきっかけでした。
アメリカでは、南北戦争(1861年)の後でした。
VINICE
缶詰は海外輸出品として発達するのが先なのですね。
MARUHA
缶詰は当時の日本にとって外資獲得の為の重要な商品でした。昭和30年以後は、国内向けが多くなり今に至っています。
VINICE
わたしたちが、缶詰を保管や運びやすい食品であると非常食として考えているのと同じですね。
★「缶詰の日」10月10日は、このような歴史の記録をもとに、
日本缶詰びん詰レトルト食品協会が、同会の創立60周年を機に1987年に制定されました。
MARUHA
日常の食品というより、やはりこうゆうところ、・・・震災のときの予備の食品として普及したのがきっかけかな。震災による火災で、横浜倉庫の「あけぼののサケ缶」が焼失して、残った缶詰を急きょ、被災者の援助物資として提供し、やがて国内に普及しはじめたのは事実です。だいたい関西方面は、西宮まで。そもそも現在関西地方で「サケ缶」はあまり食べないのですが、ただある一部では
食べていました。
それは戦時中に「サケ缶」が配られていたので知っていたそうです。だいたい兵庫県まででしょうか。
戦後も、タンパク源として人気になっていきました。
VINICE
「サケ缶」が、全国で食べられていたわけではなかったのですね。
MARUHA
日本での商業生産開始は1910年、とさきほど言いましたのも、その3年半前、日露漁業協約によりロシア沿岸領域で日本の漁業域が承認され、北洋漁業が拡大し日本海域での水揚げが活発になったという背景があったからです。このときつくったのが、最初の「あけぼの さけ缶」になります。当時の缶詰は、ブリキ板を足踏み機で切断するなど人力でした。その後おいしい「サケ缶」をつくるために、船に工場がある、母船式サケ・マス漁業がはじまりました。母船のまわりにいる小さな船がサケをとり、母船に水揚げして、船の中で加工していくという、海の上の工場です。これが「サケ缶」大量生産の歴史のはじまりです。
VINICE
サケ工船・・・海上の船の中でサケ缶をつくる工場ですか・・・・。
MARUHA
現在の缶詰工場は、陸の上です。しかし、昔はできるだけ鮮度をおとさず加工するために、母船式をつかったのです。
VINICE
スケールが大きいですね。
MARUHA
あけぼのさけ缶がつくられるようになって2010年でちょうど100年になりました。それを記念して、百年ブランド「あけぼのさけ本」をつくったんです。どうぞご覧になってください。
VINICE
ありがとうございます。見応えがありますね。パッケージデザインも懐かしいものもありますね。
サケ、シャケの違いも書いてあります・・・。さけのトリビア面白いですね。これは、住まいるCafeVINICE大崎のお店の本棚に入れさせていただきます。
次のLesson2では、缶詰の特徴についてうかがいます。
VINICE
缶詰の特徴をお聞かせください。
MARUHA
もともとは食品保存をするための容器なので、密封させることが大切です。原料を詰めた缶は、中の空気を脱気して真空にしてから密封させます。密封には、缶の容器の蓋と側面の缶を2枚重ね「二重巻締」という方法で密封して内部と外部をしっかり遮断します。できた缶詰を、圧力釜みたいな機械の中に入れて、加圧過熱殺菌します。温度は120℃近くで、食中毒菌を殺菌できます。簿吊スキンが悪さをするので、殺してしまう。賞味期限は基本的には3年だけど10年以上は経っていても保存状態がよければ食べることもできます。でも実際、美味しく食べられるのは3年迄。基本的に殺菌されているので中は腐らないのです。
VINICE
缶ごと加熱するから、原料は生ものでなく火が通っているわけですね。
MARUHA
先ほどの圧力釜で加圧加熱殺菌すると中身は煮込み料理になっているのと同じです。原料によって、加熱時間を変更してとリクエストあっても、それぞれ素材ごとに決まっているのでお受けすることはできません。加熱したあとは、冷却して、検査をし、商品になります。これを、食物の味・色・香をこわさないように、ハイスピードで加工していくことが大切なのです。
原料→調理→詰め込み→脱気→密封→殺菌→冷却→打検・荷造り→製品
VINICE
ではせっかくですので、たらばがにの缶詰の工程をご紹介してください。
リズミカルに細かく下のように
部位ごとに切り分けていきます。
截割後はこんなかんじです。
ただし脚の区別をきちんとしないと品質が落ちますので、爪肉や棒肉・らっきょ・ナンバンなどお肉がたっぷり入っている分が小さくならないように気を使います。
MARUHA
【フレークのクリーニング】
肩肉の部分をフレークの状態にします。殻や小さな骨など異物をよけます。これも手作業です。
MARUHA
【肉詰】
最後は缶の中にたらばかにの肉を詰める作業ですが、一人一缶完結です。それぞれの場所には、部位別の肉が入ったパレットがあり、分量を計りながらバランスよく詰めていきます。
VINICE
上に並んでいるのは、缶ですね。
MARUHA
あちらからどんどん、カランカランと音をたてながら流れてきます。
以前は、部位ごとに詰めていましたが、一人で行うときれいに詰められ見た目もよくなりました。
MARUHA
缶の中には、硫酸紙が入っています。これは、缶の内面塗料とかにの成分で、硫酸鉄が黒く変化することを防ぐために、缶とかにの接触を遮るために使われていました。
現在は、変色することがなくなりましたので不要なのですが、昔のイメージを残しています。
VINICE
高級感がありますよね
MARUHA
たらばかにを食べるのは、主に日本人ですね。アメリカやロシアの人はもともとあまり食べないんです。
でも最近は、中国人がたべるようになりました。ほかにホタテも。
VINICE
ていねいに手作りされているのですね。缶詰とは、調理もされているのかと思っていましたが、素材だけのものであることに改めて気づきました。そうなると素材、原料が大切ですね。
VINICE
さかなには、DHAが入っていて頭に良いとか、
体に良いとか耳にしますね。
MARUHA
そうです。当社の商品にDHAが入っているものは、このマークを全面的に入れています。通常の食品から、手軽に栄養を摂ってもらえるようにしています。当社は、生涯健康生活をテーマにして商品をつくっています。ですから、この「リサーラソーセージ」は食べるだけで栄養が摂れるのです。1991年に導入された特定保健用食品制度で、DHA入りで「食べる特保」は、マルハニチロの「DHA入りリサーラソーセージ」だけなのです。
VINICE
魚料理が苦手な人や、お子様のお弁当にも、
手軽にDHAが摂れて便利ですね。
DHAの詳しい内容は、
マルハニチロ㈱のホームページをご覧ください。
「DHAのチカラ」
VINICE
缶詰は、実は家計にやさしいと聞くのですが、
どういった点からなのでしょうか?
MARUHA
例えば、スーパーで買った「さば」を一匹買ってきて、さばいてから調理して食卓に並べるのと、
この「さば水煮缶」を使って調理するのとでは、どちらが安いと思いますか?
VINICE
生のさばのような気がしますが、内臓などのごみが出ることを考えると食べられない部分がけっこうありますね。そう考えると缶詰のほうが安いかもしれませんね。
MARUHA
缶詰は、半調理品なので、すぐに料理に使えて手間が省けるので時短ができます。また、夏のキッチンは、暑い空間で火を使う料理を敬遠しますが、缶詰なら火を使わず、すぐに召し上がることができます。調理のための手間や燃料費も少なくすむので、経済的でおすすめですよ。食べ終わった缶はリサイクルもできるし、使い勝手がいいのです。
VINICE
時間を節約できるのは忙しい人にとってありがたいですね。調理の手間も省けるうえに、おいしくDHAなどの栄養が手軽に摂れるわけですね。以前みかんの缶詰も意外と量が入っていることに驚いたことがあります。缶詰は不要な部分を取り除いて、食べられる部分のみ、凝縮して入っているからコンパクトで経済的ですね。
VINICE
以前は、缶詰の蓋をあけるのに缶切りが必要でしたが、最近は簡単にあくイージーオープン缶(プルトップ缶)が増えましたね。こちらの容器についても保存期間は変わりませんか?
MARUHA
基本的には変わりません。密封性も変わりません。
VINICE
缶に記載してある数字の文字の意味を教えていただけますか?
MARUHA
缶マークの読み方ですね。昔の缶は、何も記載していなかったので、紙が剥がれたら中身が何かわからなくなってしまったものです。そこで以前は、蓋に「品名」「賞味期限年月(日)」及び「工場名」を記載していました。最近は、「品名」を側面に印刷して、記号は「賞味期限年月(日)」と「製造所固有記号」のみになりました。ラベルに販売会社を記載していても製造工場がわかるようになっています。
VINICE
賞味期限年月は、6ケタから8ケタに記載がかわったのですね。
VINICE
缶詰は、素材のおいしさが凝縮された安全な食材だとよくわかりました。
そして調理の時間を短縮できるなんて・・・・、忙しい人にとってはこれを使わない手はないですね。
それに、防災の保存食や登山などの携帯食など、・・・いろんな場面で活用できそうです。
MARUHA
缶詰は保存食として作っていますが、特別に防災用食品としては作っていません。でも、家庭で保管している缶詰が、賞味期限を忘れないように、自動的に買い足したものが後になり、古いものから使うことができる、通常食として回転できるような「キット」は考えていましたけど(笑)。あきない工夫とか・・・。キャンプ食品や防災食品、ミニタリー食品として、頑丈で汎用性がきくものがあってもいいかもしれませんね。
VINICE
私は、これまで使う缶詰の種類が限られていました。こう教えていただくともっと缶詰を頻繁に活用したいですね。
MARUHA
日本人は缶詰をそのまま使うことが多いですね。でも、南仏のシェフとかは、料理に缶詰を食べることが多いです。缶詰が新鮮なものであることを知っているのです。・・・我々ももっと非常に良いものであることを伝えたいです。・・・この、「ラ・カンティーヌ」は、少し手を加えるだけで、とてもおいしい料理になる自信があります。
VINICE
パッケージデザインが、今までとは違っておしゃれですね。
MARUHA
缶詰の食べ方を変えてもらおうと、そんな提案から生まれました。
この缶詰を知り合いのシェフに見せると、すぐに調理してくれましたよ。日本のシェフも素材の良さをわかってくれているのです。
VINICE
住まいるCafeVINICE大崎のお店でも、試食会を開催していただきました。大変おいしくいただきましたよ。パスタにあえて簡単でした。これはぜひ、皆さんにも召し上がっていただきたいですね。
MARUHA
そのほかにも、多彩な国の多彩なメニューを缶詰にしました、「アジアン味」シリーズを今年9月より発売しました。旅先で食べる屋台飯のような“アジアごはん”を家庭で楽しめるようになっています。いずれもスパイスがきいているので、かなり辛いですよ。
缶の横を見てください。
VINICE
缶詰の色自体もが、辛そうですね~。横に、「激辛注意」と書いてあります。・・・・缶詰って、楽しいですね。もっと食べてみたいと思います!
次回Lesson4は、缶詰をつかったレシピを紹介します。
VINICE
今回は、缶詰を使って手軽にできるお料理を紹介していただきました。皆様、ぜひ作ってみてください。
VINICE
マルハニチロでは、缶詰以外の色々な食品を扱っていらっしゃいますよね。
MARUHA
食べやすさに配慮したメディケア食品をはじめ、様々な商品を扱っています。メディケア食品は、2005年よりユニバーサルデザインフードとして取組はじめました。介護食のニーズは、施設介護だけでなく在宅介護の分野でも増加しています。そこで、施設向けと在宅向けの両面から取り組んでいます。
彩りもよく、おいしくて食べやすい介護食となっており、食べる方はもちろん、簡単調理だから作る方にも、すべての人にやさしく、そして楽しんでいただける食事をお届けしております。
VINICE
介護食を食べなくてはならない人にも、栄養がある魚を手軽に食べることができてうれしいですね。様々な味を楽しめるのもありがたいです。身近な缶詰のことを改めてうかがい、参考になりました。
缶詰専用Barがあるように、缶詰のこと興味がわき、もっと料理に活用してみようと思いました。
貴重なお時間をどうもありがとうございました。
MARUHA
ありがとうございました。
あけぼのさけ缶の生誕100年をまとめた
記念本があります。さけ缶の歴史から、様々なトリビアが掲載された楽しい本です。住まいるCafeVINICE大崎の本棚にありますので、ぜひご来店の際にご覧ください!
奥深~い「缶詰」のはなし
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https://www.vinice.jp/lesson/1495/