講師:原田 廣行 氏
株式会社イー・ワークス
家の中のカビや汚れを防ぐ為の対策を日々アドバイスしています。今までに2000件超の防カビ対策をした経験をお持ちで、微生物(カビ)の与える影響について、正しい知識を広めようと日々活動されています。
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vinice
関東ではもうすぐ梅雨に入り、ジメジメする季節になります。この時期は、部屋に湿気がこもり、カビが生えやすくなります。そこで、防カビ・防汚コーディング施工をされている原田さんにお話をお伺いして、これからの季節、快適に過ごせるカビ対策を教えていただきます。さて、まずはカビの基本から教えてください。
原田氏
カビは微生物の一種です。微生物には、①ウイルス ②細菌 ③放線菌 ④真菌 ⑤藻類 の5つの種類があります。カビは④の真菌にあたります。 それぞれについてご説明しますと、まず①ウイルスとは、生物に寄生して、生きた細胞のみで増殖します。
vinice
インフルエンザなどもこれにあたるのですね?
原田氏
そうです。ウイルスは人体の中で増えていく微生物です。ですから、ウイルスに触れた手で目をこすったり、口に触れて体内に入ると増殖するのです。
そして、②細菌は、バクテリアと呼ばれ、動物の死骸や枯葉、生ごみなどを腐敗・分解させて土壌を肥沃にする働きがあるものもあります。これはリサイクルにも役立っています。
③放線菌は、カビと細菌の中間に位置し、牛・馬・豚などの家畜の伝染病の原因になります。
カビの④真菌は、糸状菌とも言われ、有機物を栄養源にして糸状の細胞(菌糸)で枝分かれしながら成長します。その先端に胞子を作り空気の流れを利用し増殖します。付着した胞子から菌糸が発生し増殖を繰り返します。カビは、表面だけ殺してもカビ菌糸が生きていれば完全に死ぬことはないのです。実はキノコはこの菌糸が集中して、笠状の子実体を作っているものなのです。真菌の中には酵母の様に、酒の醸造やパンの製造に欠かすことができない微生物もいます。
vinice
微生物にはいろんな種類があり、そのような分類を理解していませんでした。放線菌は、家畜の伝染病の原因とのことですが、人体でも増殖するのですか?
原田氏
放線菌は、家畜のみですので、人には移りません。
最後に、⑤藻類は、水中または光の当たる湿った場所に生育します。自ら光合成をして栄養を作る微生物です。建物の北側の外壁などで陽が当たりにくい場所でも反射した光が少しでもあれば、湿った場所に生育できます。
vinice
微生物には、不快なものもあれば役にたっているものもあることがわかりましたが、中でもカビや細菌はどんな影響をもたらすのでしょうか。
原田氏
食品への影響・建築物への影響・人体への影響、と3つに分けてお話しましょう。
まず、食品への影響は、商品に微生物が増殖し、それによって食品の成分が変化していきます。形・色・味・硬さなど本来の性質を失い、悪臭を放ち、あるいは毒物を生成して食べられなくなります。この現象を「腐敗」といいます。カビが産生するカビ毒は、真菌中毒症の原因になるので、慎重な扱いが必要になります。
建築物の影響は、微生物の作用で、材料が変質・劣化・分解・崩壊を起こし、機能を失います。この現象を「微生物災害」と言います。木材・繊維材料・皮革類への発生の他に、カメラのレンズやパソコンや半導体にまでカビが発生し、さらに繁殖し、被害をもたらします。プラスチックは腐らないと言われていましたが、実は、カビの大好物なのです。
vinice
プラスチックは意外ですね。住宅では、どんなところにカビが発生しやすいですか?
原田氏
浴室、塗り壁、タイル目地、タンス裏側、押入れの中、クロスなど、ありとあらゆる場所にカビが発生します。カビをはじめとする微生物は、あらゆる材料に発生・繁殖し、様々な災害をもたらすのです。 カビ(真菌)が原因でかかる病気がありますが、それが人体への影響です。カビが原因でかかる病気のことを「真菌症」と言い、真菌感染症、真菌中毒症、真菌アレルギー症があります。一番身近なのは、気管支喘息、じんましん、鼻炎や結核炎、アトピー性皮膚炎、胃腸炎などです。いわゆる「アレルギー疾患」として、アレルギー体質を持つ人が年々増加する傾向にあります。真菌感染症は、院内感染することもあり、場合によってはカビが原因で死亡することもあります。そして、真菌中毒症は、食品に増殖したカビによって起こりますが、肝臓毒、神経毒、腎臓毒、造血機能障害などがあり、中には発癌性のものもあるのです。
vinice
カビがこんなに怖いものとは・・・。カビが、私たちの生活にとても近い存在であるのに知らないことがたくさんあり、また危険があることに改めて気づかされました。カビがこんなに怖い微生物ならば、早く対策をしなくては!と焦りますが、対策の前にもう少しSTEP2でも基礎知識を教えていただきましょう。
細菌とカビの違い
vinice
STEP1で細菌とカビについて教えていただきましたが、具体的にどう違うのかを教えていただけますか。
原田氏
②細菌と④カビ(真菌)は、ともに微生物の仲間ですが、繁殖の仕方などに大きな違いがあります。細菌は、細胞分裂をすることで増殖し、だいたい1つの細胞で一生を過ごします。20分に1回の割合でどんどん細胞分裂を繰り返し、9時間経つと1つの細胞は1億3000万個に増加します。
vinice
細胞の増殖の早さはすごいですね・・・。
原田氏
次に、カビ(真菌)は胞子が空中に飛び出し、何らかの基材に付着し、そこへ水分などが与えられると胞子は新しい菌糸を伸ばし、菌糸体を形成します。その後、成熟菌糸体に成長し、菌糸の先端や途中から胞子をつくる枝をたくさん出して、その先端や測位に多数の胞子を形成します。この繰り返しをすることで増殖します。 カビの発生を阻止するうえで最も難しい問題は、菌糸が「根」を持っていることです。一度発生したカビの表面を殺菌しても、「根」から絶たないと、また新しい胞子を作り飛ばすことを繰り返してしまいます。
vinice
だから「根」から殺さないといけないのですね。でも、カビが最初から生えないようにするにはどうしたら良いのでしょうか。カビや細菌が生えやすい環境について教えてください。
原田氏
②細菌・④カビ・⑤藻の適性生育条件を教えましょう。
細菌は、温度30~38℃・湿度はカビより高濃度で発育・日光を必要としません
カビは、温度20~35℃・湿度60~90%・日光を必要としません
藻類は、温度20~35℃・湿度60~90%・日光の当たる湿った環境
vinice
細菌・カビ・藻を比べてみても、適性生育条件に大差はないですね。しかし、カビが一番普段の生活で発生しやすいことがわかりますね。 よく洗剤に「除菌」や「抗菌」、「防カビ」などと表示されていますが、どのように違うのですか。
原田氏
「除菌」は細菌を除いて減らすこと、「抗菌」は細菌の増殖を阻止すること、「防カビ」はカビ(真菌)の増殖を阻止することです。あと、「殺菌」は細菌を殺すことです。今流行している新型インフルエンザ対策として、皆さんこのような効果のあるものを使っていますね。
また、「防カビ」は、対象をカビのみとしていることが他と違う点です。防カビ剤は、あるいくつかの真菌に効果があるものから、数百種類に効果のあるものもあります。しかし、JIS規格では13種類の指定されたカビ菌の内いずれか5菌又指定3菌の試験菌に有効であれば防カビ剤として認定されます。しかしながら建物で発生するカビの種類が多いため、全種類に効果がない場合があります。防カビ表示があるものを使っても、カビが発生するのはこのためです。そして、殺菌や除菌に使う防カビ洗剤の成分である次亜塩素酸ナトリウムや消毒液の消毒用エタノールを塗布しても防カビ効果の持続性はありません。
vinice
カビは思った以上に頑固なのですね。防カビ効果の持続性がなければ、常に清潔にするためにまめにお手入れをする必要がありますね。
カビが生えやすい場所
vinice
家の中でカビが発生しやすい場所はどこでしょうか?
原田氏
一番カビが生えやすいのは浴室です。温度、湿度が高く、カビの栄養となる石鹸カスが残っていることが多いので、カビが生える条件が揃っています。水に濡れやすく汚れやすいところ、空気がよどむところ、低温になり湿りやすいところは一般的にカビが生えやすく、注意が必要です。 他に水に濡れやすく汚れやすいところは、キッチンや洗面所、空気がよどみやすいのは押入れや納戸、さらに、屋根裏や留守がちのお宅です。そして、低温になり結露がしやすいところは、北側の窓や外壁に接している部分です。 方位に関係なく、室内の部屋干しや加湿器の使い過ぎによって湿気が多く部屋にも発生することもあります。
vinice
梅雨の時期はどうしても洗濯物を部屋干しするしかないのですが。
原田氏
水分や水蒸気があればカビが生え、水分や水蒸気が多いほどカビはよく生えます。本当は、室内に干さないことが望ましいですが、それが難しければ浴室に干してください。浴室に窓があれば窓を開けて、なければ浴室乾燥をつけてください。そのときに浴室の扉は閉めてください。
vinice
浴室の扉を閉めなければならないのは、湿気が他の部屋にいかないようにですか?
原田氏
その通りです。浴室につながっています洗面室のクロス、特に洗濯機置き場のうらの壁にカビが発生し易くなります。お風呂から出る時は、浴槽のフタをしめ浴室の扉を締められることをお勧めします。
vinice
よく、新築マンションや、1階住戸はカビが生えやすいと聞きますすが、何故でしょうか。
原田氏
新築マンションは、コンクリートが十分に乾いていない場合があるので水蒸気の発生量が多くなるため、カビが生えやすくなります。また、1階住戸に関しては、地面から湿気が上がってくるので、高い階よりもカビが生えやすいのです。
vinice
なるほど。カビはどこにでも生える可能性がありますが、できるだけカビが生えにくい環境を自分でつくる必要がありますね。次回は具体的なカビの対策方法を教えていただきましょう。
vinice
カビの対策方法を教えてください。
原田氏
1番カビが生えやすい浴室は、入浴後換気扇をまわしたり、窓を開けてください。浴室内の湿気をできるだけ早く追い出すことが大切です。あとは、床や壁にお湯をかけて汚れを落とし、次に水をかけて温度を下げるようにすることもよいですね。浴槽は、お湯を抜いてそのままにしておくと、汚れが乾いて落ちにくくなるので、お湯を抜いたらすぐにお掃除をして、水滴を拭き取ることが望ましいです。
vinice
なるほど。でも、すぐにお掃除はなかなかできないものですが・・・。カビが生えるためには温度・湿度・栄養分が必要とのことですが、床や壁にお湯と水をかけるだけでも、温度と栄養分が取り除けるので、ずいぶんカビの発生が抑えられそうですね。
原田氏
よく天井にカビが生えることがありますが、それは、カビの栄養となる皮脂汚れが浴槽の湯気と一緒に天井に上がるからです。入浴の合間は浴槽にふたをするようにしてください。
vinice
ピンク色の汚れもカビですか?
原田氏
ピンク色のヌメリは、カビと同じ真菌ですが「酵母」にあたります。
酵母は、カビに比べて増殖のスピードがとても速いのです。 ピンクのヌメリをそのままにしておくとカビが生えてきやすいので注意してください。ピンクのヌメリであれば、水ぶきや普通の中性洗剤で簡単にとれます。
そしてキッチンでは、発生した水蒸気が他の部屋にまわらないように、調理時、炊飯時、皿洗い時に換気扇をまわしてください。また、調理後などもしばらく換気扇をまわしておいてください。
梅雨の時期、湿度が高いときの居室では、エアコンの除湿が効果的です。 寝室は、就寝前の5分程度窓を開けることによって換気され、寒い時期は結露が軽減されます。
また、ベッドなど家具を配置するときは、壁から5cm程度離してください。 押入れや納戸は、収納部品を外壁より数cm離し、空間いっぱいに収納しないようにしてください。
また、床にスノコを敷き風通しをよくしてください。夜間、押入れの襖を開けておくのも有効的です。
さらに、扇風機を利用する換気方法もあります。家具と壁面のすき間や押入れ、下駄箱に扇風機で風を送り込み、湿気や空気を循環させるのも効果的です。
ガラス窓については、雨戸や複層ガラスを使うことが望ましいですが、自宅が雨戸や複層ガラスでなければ、結露をこまめにふき取ることが一番よいです。暖房器具を窓側に置くこともよいでしょう。
vinice
カーテンにカビが生えてしまった、と聞いたことがありますが、その対策はありますか?
原田氏
カーテンはこまめに開閉して、空気のよどみをなくすことが大切です。また、窓が結露していたらこまめに拭きましょう。 1人暮らしの方や共働きなどで留守がちの方は、日中換気ができず空気がこもってしまいますので、帰宅後に全ての部屋の窓を開けてください。10分程度でもよいので、外気を入れることが大切です。あとは、湿気がすごい場合は、外出時に除湿器をつけることも良いでしょう。
vinice
でも、家を空けている間ずっと除湿器をつけているのは、電気代が気になるので、エアコンを除湿モードにしてタイマーをかけておくのがよさそうですね。
原田氏
そうですね。洗濯機については、洗いあがった洗濯物を洗濯機から早めに取り出してください。洗濯後は、洗濯機のふたを開けて洗濯槽を乾かしてください。
vinice
では、生えてしまったカビはどうすればよいですか?
原田氏
カビ取り洗剤を使いますが、こすると洗剤が飛び散って危険ですし、素材に傷がつきカビの菌糸が入り込んでしまいますので、こすらずに数分待ってから流すことがよいです。
vinice
よく、新築マンションや、1階住戸はカビが生えやすいと聞きますすが、何故でしょうか。
原田氏
新築マンションは、コンクリートが十分に乾いていない場合があり、水蒸気の発生量が多くなるため、カビが生えやすくなります。また、1階住戸に関しては、地面から湿気が上がってくるので、高い階よりもカビが生えやすいのです。
vinice
なるほど。
カビの対策は、とにかく、湿気や水気をなくすこと、空気の循環をさせること、温度差をなくすことが大切なのですね。とても参考になりました。ありがとうございました。 皆さんも、カビ対策をして快適な暮らしを送ってくださいね。
〜梅雨のじめじめ季節に〜 カビ対策をして快適に暮らそう
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